建設業を語るうえで、「元請」「下請」の構造は、避けては通れないといっても過言ではありません。工事の分業化を図るうえで、多くの現場は下請が何層にもある重層下請構造で成り立っています。しかし、大体の意味は理解していても、正確に元請と下請の定義や構造について正確に理解していないという方もいるでしょう。今回は、いまさら人に聞きづらい、元請と下請の定義や違い、さらにそれぞれのメリットやデメリットや問題点にまで踏み込んで解説していきたいと思います。
建設業での元請と下請けの違い
建設業における元請とは、発注者から直接受注を受ける業者を指します。それに対して下請は、その元請業者の仕事の一部を請け負う業者を意味します。両者の違いは「誰から依頼を受けて仕事するか」です。元請の依頼人は発注者、下請の依頼人は元請業者となります。例えば、ゼネコンから直接依頼を受ける建設業者を元請、その業務の一部を委託される小規模な建築会社や一人親方などは下請けとなります。下請け構造の下層に行けば行くほど、受注価格は安くなる傾向が見受けられます。
元請と下請けの2つの仕組み
基本的に、元請から下請が受注するという形で建設業界は成り立っています。しかし、大規模な現場になると、下請からさらに受注する業者も生まれるケースがあります。具体的にどれほどの規模の現場かというと、特定業者が受注する工事の下請け総額が4千万円以上の契約になります。この場合、工事にかかわる元請から下請のすべての情報をまとめる施工台帳の作成が義務づけられます。また、下請として受注するためには、軽微な工事を除いて、建設業許可を保有していなければならないと建設業法で定められています。
一次請け
一次請けとは元請から直接受注を受ける業者や一人親方のことを指します。「一次」という言葉から発注者から受注する元請と混同する人も見受けられますが、元請→一次請けという構造なので間違わないようにしましょう。元請は基本的に1社ですが、一次請けは複数の企業で担当する場合もあります。例えば、建設工事、内装工事、外構工事などの各工事を専門性の高い業者にそれぞれ委託するケースは珍しくありません。しかし、資材の販売業者や地盤調査業務、警備や運送業者などの直接関わらない業者は、元請と直接契約しても下請けとは定義されません。
孫請け
孫請けとは、一次請けの事業者から受注を受けて業務を行う業者や一人親方を指します。
二次請けや二次下請けと称することもあり、比較的小規模で元請から直接契約を受注できない業者が目立ちます。この場合であっても、工事の責任は一次請けではなく元請が追うことになります。そのため、下請けは孫請けに業務のすべてを丸投げはすることは許されません。一次請けは、再下請負通知書を元請けに提出して、業務の一部を孫請けに委託したという報告をします。
建設業で元請としての立場にいる3つのメリット
このように建設現場の多くは、発注者→元請→一次請け→二次請け→三次請け…と重層化層構造で成り立っています。工事の内容が高度化したことから、専門化や分業化が進み、さらに機器や工法の多様化への対応するためこのような構造が生まれました。合理的な仕組みのように見えますが、元請、下請それぞれで抱えるメリットやデメリットがそれぞれに発生し、工事が複雑化し様々な弊害が生まれていることも事実です。まずは元請業者でいるメリットについて、3つに分けて解説していきましょう。
自社で捌ききれない工事も請けられる
元請となるメリットの1つに工事の一部を下請に発注できるため、自社だけでは難しい専門性の高い工事や規模の大きな現場などの、幅広い業務を受注できることが挙げられます。逆に、得意とする分野の小規模工事は自社で対応し、大規模な工事は下請けに回すことも可能です。このようにすれば、大規模工事を受注する際も委託、複数の建設企業でジョイント・ベンチャーを設立する必要もないのです。このように元請になれば自社だけでは対応できない案件も、下請に一部業務を委託することで受注できるようになります。
利益率が高い
元請になれば、利益率の高い仕事ができます。先述したように建設業界の重層下請構造では、二次請け、三次請けと下層になるほどに中間マージンが差し引かれるため利益率の低い仕事になります。発注者から直接受注できる元請になれば、仕事をしたそのままが自社の利益となるのは非常に大きなメリットです。また、一部の業務を下請けに委託すれば、機材や人件費などの固定費も大幅にカットできることも、元請の利益率を高くしている要因といえるでしょう。
請求金額を決められる
発注者から受注する際、価格は元請の言い値で決まることが多いため、自由に価格を設定することができるのも元請となるメリットの1つです。工事の価格だけではなく、工期、工事のスケジュールなども発注者と直接コミュニケーションをとりながら決められるため、互いのニーズに沿った受注ができるのは元請ならではの醍醐味と言えます。さらに、工事は元請の実績として記録されるので、今後の企業のアピールにも活かせるでしょう。さらに下請けへの発注価格も、元請けが決定できるのも非常に大きな利点と言えます。
建設業で元請としての立場にいるデメリット
元請でいることのデメリットは、責任の大きさです。二次請け以下のすべての下請けの事故やミスの責任の所在はすべて元請が負うことになります。そのため、下請の労災保険はすべて元請の負担の下で加入されることになるのです。また、業務の一部を丸投げするのではなく、下請と業務の連絡を取り合い発注者の意図に沿った工事であることを監督し、安全の確保にも配慮しなければなりません。工事が終わるまで何社もの下請けの業務を管理することは、時に大きなリスクも伴います。
建設業で下請としての立場にいる2つのメリット
元請は請求金額や工事のスケジュールなどを発注者と決定でき、下請け業者に一部業務を委託することで幅広い業務を高い利益率で行えるというメリットがあります。しかし、すべての下請けの業務上で発生するトラブルの責任を負わなければならないので、負担が大きいのも事実です。元請と同様に下請業者にも、メリットやデメリットは当然発生します。元請から業務を委託する下請業者になることで得られるメリットを、まずは以下で2つ紹介していきましょう。
営業の必要がない
営業活動をしなくても良いことは、下請けになる最大のメリットといえるでしょう。営業活動を行うならば、営業の人件費と広告費などの費用と時間がかかります。しかし、元請から受注するルートを確立していればその時間と労力をすべて実務に費やせるのです。また、工事に伴う書類作成や取引条件の交渉などもすべて元請が負担してくれます。さらに、自社だけでは受注できないような大きな案件も下請けとして一部を受注することも可能であるため、スキルも磨かれていくでしょう。
業務量を一定数確保できる
下請になれば安定した業務量を確保できるのも大きなメリットと言えるでしょう。元請は利益率が高い仕事ができますが、発注者に呼びかけ仕事を受注するために大きな労力を擁しています。先述したような営業活動も必須ですし、競合他社の研究をして戦略を得る必要もあります。しかし、下請けとして一定の規模を誇る元請と関係を構築していれば、何もせずとも業務が下りてくるようになります。そのため独立する際は、下請けからキャリアをスタートする一人親方が多いのです。
建設業で下請としての立場にいる2つのデメリット
下請となれば、営業活動や開発に費用や時間を割かなくても、元請から業務を委託できます。もちろん、工事に伴う事務手続きも殆どは元請が請け負うので、事務手続きなどをやらず実務に集中したいという職人気質の方には向いている働き方と言えるでしょう。しかし、当然のことながら下請けとなるデメリットも当然存在します。下請となるとどうしても金銭や工事の進行に関しては不自由さを感じる機会が増えてくるのです。下請けになることで発生するデメリットを、以下で2つに分けてより詳しく解説していきましょう。
請負価格の自社決定権がない
元請とは異なり、請負価格の自社決定権がないことは下請になる最大のデメリットです。元請は自分の利益率を上げるために、少しでも安く請け負ってくれる業者を探しています。そうすると下請け業者の中で価格競争が発生し、元請にかなり安価な金額で買い叩かれてしまうケースが非常に多いのです。その中から中間マージンも抜かれるため、工事が終わったら赤字だったということも珍しくはありません。このように、下請け業者は請負価格を自由に決められず、思うように利益を上げられないという一面があります。
元請のいいなりになってしまう
自社の都合ではなく元請の条件の下で働かなければならないのもデメリットの1つです。例えば、何らかの理由で工事が難航したとしても、一度元請から提示された価格や取引条件は難しいケースもあります。さらに、元請の業績が悪化すればその影響をダイレクトに受けるため、業務量が減らされたり、最悪の場合契約を打ち切られることも考えられるのです。実際に元請の強い立場を利用した、支払いを渋る、契約外の業務をさせる、無理な工期を要求するなどの「下請いじめ」は珍しいものではなく、建設業界の悪しき習慣として認知されています。
建設業で元請が下請を選ぶときの注意点4選
下請になると開発や営業活動をせずとも元請から受注を得られるというメリットがありますが、請負金額や契約がすべて元請の管理下になるために時に理不尽な契約となるケースもあります。しかし、元請にとっても下請によるトラブルで被害を被ることもあります。先述したように下請のミスやトラブルはすべて元請の責任になるため、下請次第では元請の評判も落としかねないのです。良質な下請け業者を選ぶための注意点について、以下で説明していきます。
無理のない金額設定
元請、下請双方にとって無理のない金額設定で契約できる業者を選びましょう。自社の利益を確保しようと下請けに低い金額を設定すると、人材や資材が不足し結果として満足いく業務が行えずトラブルになるケースが見受けられます。資材や経費も下請けの負担となるため、それを差し引いても下請けが十分な利益を確保できる金額を設定すればそのようなリスクは回避できます。また、支払期日下請けの材料費の支払い日なども考慮して設定しましょう。お互いが納得できる金額で契約することが大切です。
労働条件を明確に決定する
労働条件を明確に提示している下請けを決定しておきましょう。受注した工事の責任は元請けが負うので、労働条件が曖昧な下請け業者を選んでしまうと互いの中で認識のずれが生じている可能性があり、後にトラブルとなる恐れがあります。特に社会保険未加入問題は問題視されているので、加入しているかはしっかり確認しましょう。作業員の名簿など安全書類の作成業務などの雑務を滞りなく行える環境が整っているかも、業者を選定する際にチェックしたいポイントの1つです。
作業員と技術者の人数確保
工事に必要な作業員と技術者の人数を揃えらえる業者であるかを確認してください。建設業法で請負金額にかかわらず、工事現場には主任技術者又は監理技術者を配置しなければならないと定められています。また、工事に必要な人員が確保できないと、工期内に安全で制度の高い工事を進めることは不可能でしょう。請負金額を重視して安価な業者を選定すると、人数が足らずに求められるレベルの工事が行えない可能性があるので、下請けの人員確保能力も重視して選定しましょう。
建設業での元請と下請構造で発生する問題
現在、建設業界の重層下請構造は改革すべきという声も多く上がっています。なぜなら、下請け同士の価格競争が激化しており、競争に勝つためにかなり低い価格で請け負う業者が増えているからです。請負金額や利益をコントロールできず、苦境に立たされる下請業者が非常に多いのです。また、元請、下請け間の建設工事の請負代金等の支払に関する問題も後を絶ちません。トラブルが起こった際は、行政の介入は難しいことが多く、解決は当事者間に委ねられるため理不尽な立場に立たされる下請けも多いのです。契約内容を書面に必ず残す、変更内容も記録するなどしてトラブルを未然に防止しましょう。
【まとめ】元請と下請構造を理解しスムーズに建設現場を進めよう!
建材建設業界は、内需拡大という追い風に乗って高い需要の中にあります。工事の高度化や専門化に対応するために構築された元請と下請の構造は、合理的である反面様々な問題を抱えています。下請は利益を確保できない、元請から求められる工期が短い等の不満を抱えています。そして元請も、下請に依存すればするほどに施工の役割を管理しきれず責任の所在が曖昧になり、品質や安全性が低下するという問題を抱えているのです。それぞれのメリットや問題点を理解したうえで、トラブルのない安全な現場を目指してください。