建設業における「原価管理」とは?原価管理が難しい理由やおすすめのシステムも紹介!

建設業において材料費や労務費といった原価を計算し適切に管理することは、かかったコストを把握し分析するために非常に大切です。
また、建設業許可を得るためには、原価を計算し作成した「完成工事原価報告書」を提出しなければなりません。
建設業特有の決まりごとがあるため、他業種よりも原価管理が複雑で難しいといわれており、手間とコストがかかりがちです。

本記事では、原価管理の重要性とその難しさ、おすすめのシステムについて解説します。効率よく原価管理をするために、ぜひ本記事を参考にしてみてください。

建設業における「原価管理」とは

工事原価管理とは、工事の計画段階から施工完了までの各工程における材料や人件費、諸経費などの費用を把握し、予算内で進行するための管理のことです。
適切に工事原価管理をしないと、当初の予定より利益が出なかったり、後から赤字が発覚したりすることがあります。また、損益計算書に建設工事の「完成工事高」と「完成工事原価」を計上して記載するよう、建設業法で義務付けられています。
建設業では、大規模な工事になるほど工期が長くなり、追加発注や材料仕入れ値の変動などが多く発生しがちです。その分だけ原価管理が複雑になり難しくなる傾向があります。

建設業において「工事原価管理」を行う重要性

工事に必要な費用を事前に予測して予算内に収め、プロジェクトの進行に必要な資金を効率的に配分するためには、工事原価管理が必要です。予算外の費用を最小限に抑え無駄なコストを回避し、品質を維持するために必要なコストを適切に配分することで、品質の管理にもつながります。

正確な原価管理をすることでプロジェクトの成功や顧客満足度の向上につながるため、建設業界や工事業界において工事原価管理は非常に重要です。

建設業において「工事原価管理」が難しい理由

建設業において工事原価管理が難しいといわれる理由について解説します。

理由1:勘定科目が特殊

建設業の勘定科目は、「建設業法施行規則別記様式第15号及び第16号の国土交通大臣の定める勘定科目の分類」に従う必要があります。
建設業では取引が長期間になる傾向があるため、他業種の勘定項目とは異なる特殊なものが使われます。

建設業の会計で用いられる特徴的な勘定科目を一覧でご紹介します。
・完成工事高
:完成した工事の売上のことで、一般会計における「売上高」

・完成工事原価
:工事にかかった費用のことで、一般会計における「売上原価」

・完成工事総利益
:完成工事高から完成工事原価を引いた粗利のことで、一般会計における「売上総利益」

・未成工事支出金
:完成前工事の費用のことで、一般会計における「仕掛品」

・完成工事未収入金
:工事完成後に未回収の費用のことで、一般会計における「売掛金」

・未成工事受入金
:工事完成前に支払われた代金のことで、一般会計における「前受金」

・工事未払金
:支払いを済ませていない費用のことで、一般会計における「未払金」「買掛金」

理由2:外注費の勘定が難しい

材料費、労務費、経費の3つを原価として計算するのが一般的ですが、建設業ではさらに「外注費」が原価に加わります。
基本的に自社の作業員に関わった費用は「労務費」で、他社への委託業務にかかった費用は「外注費」として計上されます。
しかし、自社で資材調達したが工事は他社に依頼した場合や、人手不足で応援の人材を依頼した場合は、臨時雇用と変わらないとみなされ、「外注費」ではなく「労務費」の中にある労務外注費として扱われます。
また、現場代理人や事務所で働く事務員に支払われる給与は「労務費」ではなく「経費」に分類されます。

雇用者と委託者で業務内容が近かったり、現場作業とオフィス事務をどちらも受け持つ従業員がいたりすると、費用をどう分類すべきか判断に迷う場面が多く、原価管理が難しくなりがちです。

理由3:売り上げ・原価の計上タイミングが特殊

建設業では、着工から完成、引き渡しまでに1年以上かかることが珍しくありません。引き渡し時に一括ですべて計上すると、途中で発生した修正や追加注文によって実は赤字になっていた、ということが最後に判明するケースがあります。
そのような事態を避けるため、建設業では工事の進捗に応じて収益を分割して先んじて計上できる「工事進行基準」が用いられます。途中の修正や追加注文が発生するたびに費用を請求できるため、大幅な赤字を防げるでしょう。
しかし、入金に先行して材料費や労務費の計上を済ませると、損益のバランスが崩れてしまいます。
この問題を回避するために、「未成工事支出金」として、先行して発生する経費を計上します。この「未成工事支出金」は、工事が完了した時点で「完成工事原価」に切り替えないといけません。

このように原価の計上タイミングが特殊であることが、工事原価管理を複雑にしている一因です。

理由4:費用の構成が複雑

建設業における原価計算は、他業種のものより複雑です。
国土交通省の「公共建築工事共通費積算基準」で定められている通り、工事費は「直接工事費」、「消費税等相当額」、「共通費」の3つで構成されています。そのうち「共通費」が、建設業における原価計算を複雑にしている一因です。

共通費には、工事費の構成上、「工事原価に含まれるもの」と「含まれないもの」が混在しています。
人件費を例にすると、現場作業員、工事現場で管理業務をする従業員や工事部門事務員などの人件費は、「現場管理費」として工事原価に含まれます。
一方で、営業担当者、営業事務員、社内の管理部門や経理部門の人件費は「一般管理費等」に分類され工事原価に含まれません。
このように同じ「人件費」でも、工事原価に含まれるものと含まれないものに分かれるため、細かな分類が必要です。

理由5:経理業務の負荷が大きい

現場ごとの変更点や追加費用をつぶさにチェックして赤字を防ぐためにも、経理業務には正確さとスピードが求められます。

現場ごとに発生する費用明細をそれぞれ異なるフォーマットで提出されると、それらを一手に引き受ける経理の部署は非常に苦労します。ひとつひとつの伝票をシステムに手打ちしなければならず、作業工数が膨大になるだけでなく、入力ミスのリスクも高まります。

建設業における原価管理システムの選び方

建設業における原価管理システムの選び方をご紹介します。自社のニーズを把握して、適切なシステムを選ぶことが大切です。

1:導入目的を明確にする

どのような目的で導入したいかによって、システムの選び方は変わってきます。
「工事の無駄を見つけて削減したい」、「業務全体を効率化したい」、「財務状況を一目で把握したい」といった会社の課題、要望を洗い出して利用目的を明確にすることが大切です。
やみくもに多機能のシステムを導入すると、使わずに無駄になる機能があったり、余計に操作が複雑になったりする事態に陥る可能性があります。
利用してみないとわからない場合は、サポートが充実していたり、導入後のカスタマイズ性に優れていたりするシステムを選ぶといいでしょう。

2:クラウドか、オンプレミスか

原価管理システムには、インターネット上のサーバーを利用するクラウド型と、自社サーバーを用いるオンプレミス型があります。

クラウド型ならば、自社サーバーを設置する必要がなく、初期費用やサーバーメンテナンス費用を節約できます。また、ネット環境があればどこからでもアクセスできます。ただし、クラウドタイプは不正アクセスのリスクが比較的高いとされています。また、長期に利用するとオンプレミス型よりも費用がかさむ傾向があります。
オンプレミス型ならば、自社サーバーを使用するため、自社のニーズに合わせて機能の追加や変更ができます。しかし、自社でサーバーの設置やシステム構築、メンテナンスや保守をする必要があるため、労力とコストがかかります。

3:一元管理機能があるか

抱える案件が多いほど、作業内容が多岐にわたり、ひとつにまとめて管理することが難しくなります。
また、建設業では基本的に作業現場と事務所が離れているため、細かなやり取りが上手くいかず日々更新されるデータの処理が追いつかないケースが多く発生します。一元管理機能があれば、各現場で日々更新されるデータをスピーディに効率よく収集し管理できます。すでに各現場からの膨大で細かな費用の処理にお困りならば、一元管理できる機能が備わった原価管理システムをおすすめします。

建設業向け原価管理システムおすすめ6選

建設業に適した原価管理システムを6つご紹介します。

1:アラジンオフィス

株式会社アイルが開発・販売・アフターサポートまで一貫しておこなっている「アラジンオフィス」では、原価管理だけでなく、案件ごとの請求書の発行や現場別の作業日報の登録が可能です。
また、材料の仕入れや職人の作業などの進捗状況をデータベース化して把握できます。売上から原価まで紐づけて一元管理でき、スムーズにデータを共有するのに役立ちます。
5,000社以上の導入実績があり、会社の要望に応じて適切にカスタマイズされたパッケージを提供してくれます。

2:建設原価ビルダー3

「建設原価ビルダー3」は、コベック株式会社が提供する原価管理システムです。

業務フローに沿ってデータを入力するだけで、経理担当者だけでなく現場や経営者が求める形式で帳簿を作成できます。材料費、労務費、経費、外注費といった建設業特有の勘定項目に対応し、それぞれ詳細にデータ登録が可能です。工事状況を数値で的確に「見える化」し、工事原価や管理コストの削減に役立てられます。
目的の機能をイラストで示したタイルボタンを採用しており、初めて利用する方にも親切な設計です。

3:Const

「Const」は株式会社ブラックハンドが提供するクラウド型の原価管理システムです。

インターネット環境があれば外出先や在宅勤務でも利用でき、スマホやタブレットからもアクセスできます。見積から原価管理、仕訳作成まで一本化して扱えるので、同じデータを別々のシステムに入力するような煩わしさがなく、簡単にデータをまとめられます。
Microsoft Officeに近い操作性なので、今までExcelソフトで原価管理をしていた方ならばスムーズに使いこなせるでしょう。

4:どっと原価NEO

株式会社建設ドットウェブが提供する「どっと原価NEO」は、建設業特有の習慣に対応した原価管理システムです。

財務会計や給与計算に用いる他のソフトとも連動できます。使い慣れたオリジナルフォーマットのExcelファイルをそのままソフトに適用でき、請求書や見積書などを提出先ごとに書式を変えて出力できます。

小~中規模企業向けのパッケージソフトから、サーバーレスのクラウド型まで提供しているため、用途に適したシステムを選べます。

5:本家シリーズ

株式会社アイキューブの「本家シリーズ」は、建設原価をリアルタイムで更新することで、現場の利益率や進捗率などを確認できる原価管理システムです。
発注処理や給与連動、見積作成といったオプション機能が豊富に用意されているので、必要に応じて、より使いやすくカスタマイズ可能です。多くの導入実績があり、躯体工事向けやガス工事業向けといった建設業の中でも細分化されたテンプレートが用意されています。
導入や運用、保守をサポートしてくれる体制も充実しているため、安心して利用できます。

6:Workspro

「Workspro」は、株式会社日立システムズが提供している工事原価管理システムです。
案件ごとの実行予算、原価推移を把握するための機能がたくさんあり、受発注や債権債務機能までカバーしています。パッケージソフトであるにもかかわらずデータベースの仕様をすべて公開しているため、自由度の高いデータ利用が可能です。
日立システムズが提供するリソースオンデマンドサービスを合わせれば、データ処理に用いるCPUやメモリ、ディスクを必要な分だけ利用でき、運用の手間やコストを削減できます。突然の停電や災害でデータが破損しても、容易に素早くデータを復旧できます。

現場管理費現場管理費とは?一般管理費との違いや把握しておく重要性などを解説

【まとめ】建設業の「工事原価管理」でコストを見直して利益を増やしましょう!システム導入についても要検討

原価管理の重要性とその難しさ、おすすめのシステムについて解説しました。
工事原価管理には建設業界特有の複雑さがあり、労力とコストがかかりますが、費用を正しく把握して赤字を防ぐためにも、ないがしろにはできません。上手く工事原価管理をしていけば、これまで気づかなかった無駄なコストを見つけて削減し、利益を増やせるかもしれません。

建設業向けの工事原価システムを導入すれば、今までよりもスピーディに効率よく工事原価を管理できます。
ぜひ上手に工事原価管理をして、利益アップを目指してください。

工事進行基準がなぜ廃止されたのかについてはこちらの記事で解説しています。

工事進行基準はなぜ廃止された?建設業で知っておくべき「新収益認識基準」についてご紹介!