施工管理における原価管理とは?役割やメリット・進め方などを解説

施工管理 原価管理

施工管理において、原価管理は予算オーバーなどのリスクを事前に察知するための重要な要素です。原価管理によって、工事を予算内で完了させてコストを削減できます。

しかし、原価管理のノウハウが不足していると、会社の損失や工事遅延にもつながり、担当者にとっては不安の種でもあります。

本記事では、施工管理における原価管理について、役割やメリット、進め方を解説します。難しい原価管理をマスターして、円滑な工事を進めるためにも、ぜひ最後まで読んでみてください。

施工管理における原価管理とは

施工管理における原価管理とは、建設工事で発生するあらゆる費用を算出して、管理することです。現場監督は、原価管理を通して工事の進行具合やコストの推移を把握しています。一方、経営者側は、原価管理を利益確保や、将来の受注価格の設定に使用します。

そもそも原価管理の役割とは何か、現場監督と経営者との考えの違いは何か、という観点から、施工管理における原価管理を解説します。

原価管理の役割

施工管理における原価管理の役割とは、工事を予算内に完了させて、コスト削減し、利益を出すことです。具体的な役割は以下の通りです。

  • 原価管理による工事進捗状況の把握
  • 予算オーバーリスクの早期発見
  • コスト削減できる部分を指摘
  • 適切な資材と人員の投入
  • 将来の見積・受注価格へのデータ蓄積

原価管理によって、予算超過を防ぎ、会社や関係者への損害をなくせます。予算内で工期内に完成するための計画を立てて、工期遅延のリスクも減らすことができます。施工管理において原価管理は工事を成功させるために重要な要素です。

施工管理と経営者による原価管理の違い

施工管理者と経営者では、原価管理の目的や重要視する部分が異なります。施工管理者は、個別の工事ごとに予算内で確実に完了させることを重要視していますが、経営者は会社全体の収支と利益の向上を目指しています。どちらも工事の円滑な施工と会社の健全な経営に必要です。それぞれ解説します。

施工管理における原価管理

施工管理者の原価管理は、現場で発生する材料費や人件費などを管理して予算内に収めるように努めます。施工管理者が原価管理で確認する部分をまとめます。

  • 目的:予算内に収めて工期内に完成する
  • 対象工事:個々の工事
  • 分析対象:管理する工事の直接費・間接費
  • 原価管理の活用法:工程や資機材調達の判断材料
  • 必要な課題:予算オーバーのリスク管理

施工管理者は、個別の工事に焦点を当てて、予算立案や費用の設定を行い、予算超過リスクを未然に防ぎます。原価の内訳を確認して無駄な支出を洗い出したり、資材ロスの削減をして適切にコストダウンしたりと、担当工事の資産を見ながら原価管理しています。

経営者における原価管理

経営者の原価管理には、会社全体の利益の確保と向上を目指す役割があります。収益性を上げるために、工事全体の資金状況や市場状況を分析して事業戦略を行います。経営者が原価管理で確認する部分は以下の通りです。

  • 目的:会社全体の利益確保
  • 対象工事:全体の工事
  • 分析対象:全工事の原価実績
  • 原価管理の活用法:将来の受注価格設定や経営戦略の立案
  • 必要な課題:工事全体の不要な支出の削減と利益率の確保

経営者は、全工事の原価データを集約して管理します。工期に関係なく、長期的に原価データを分析して、将来の原価水準を予測したり、利益目標に合わせた受注判断を下したりします。

経営判断への活用として、社内で抱える全工事の原価管理データをまとめるのは経営者の重要な責務です。

施工管理における原価管理のメリット

施工管理において、適切に原価管理を行うと様々なメリットがあります。コストを抑えた精度の高い見積りや受注判断ができるので、工事において原価管理は重要です。具体的に原価管理のメリットを3つ紹介します。

損益分岐点を把握できる

適切な原価管理を行うと、工事の損益分岐点を把握できます。損益分岐点とは、工事の売上高と費用が一致し、利益を出し始める点です。

固定費と変動費から損益分岐点を算出するので、原価管理の材料費や労務費、外注費などの支出データを確認して、固定費と変動費を区分します。データをもとに、損益分岐点を以下の計算式で算出しましょう。

損益分岐点=固定費÷(売上高粗利益率-変動費粗利益率)

売上高粗利益率は、売上高から変動費を引いた金額の割合で、変動費粗利益率は、売上高に対する変動費の割合です。

算出した損益分岐点から、利益が出る売上高が分かり、先を見通しやすいです。予算を設定し、達成売上高を把握することでリスク管理できます。

作業員へ状況を伝えやすい

原価管理によって工事進捗や費用推移が分かると、作業員への状況を伝えやすくなります。費用が超過している場合は、その内訳や原因を作業員に視覚的に伝える手段として有効です。

売上の目標達成状況を共有すれば、作業員のモチベーション向上にも期待できます。現場の状況をリアルタイムで作業員に伝えることで、生産性の向上やコスト削減を意識した施工が可能となります。

コストシミュレーションできる

原価管理データを活用すれば、様々なコストシミュレーションも可能です。工事の採算性を事前に把握して、リスク回避に役立てられます。例えば、以下のようにシミュレーションできます。

  • 資材費単価や人件費単価が変動した場合の工事原価へのシミュレーション
  • 工期遅延した場合の追加費用のシミュレーション
  • 設計変更があった場合の追加費用のシミュレーション
  • 外注費用と社内施工のコスト比較シミュレーション

これらのシミュレーションで、無駄なコストを削減するイメージを掴めます。

施工管理における原価管理の進め方

施工管理における原価管理は、予算策定から実行、分析、改善までの流れに沿って進めます。施工の効率化や的確な経営判断のためにも、適切に原価管理する体制を整えましょう。原価管理の進め方を解説します。

1.実行予算を設定する

原価管理を進める最初の手順は、適切な実行予算を設定することです。実行予算は工事全体の目標原価であり、この目標に実際の原価を対比していきます。実行予算を設定する手順は以下の通りです。

  1. 仕様書と設計図書から必要な資材や外注費を算出
  2. 過去の実績データなどをもとに資材単価や労務単価を設定
  3. 工種ごとに費用を積み上げて直接原価を計算
  4. 現場経費や一般管理費から間接経費を計算
  5. 工事全体の実行予算を設定

このように、工事内容と過去のデータ、市場状況を加味して直接費・間接費を算出し、適切な実行予算を組みます。

2.原価の発生を抑える

原価管理で実行予算を設定したあと、実際の工事における無駄な原価の発生を抑える見直しが必要です。原価抑制には、以下の見直しが有効的です。

  • 手持ち時間がある人件費の削減
  • 加工ロスを最小化にして資材ロスの削減
  • 同等の機能を低コストで実現する代替案の検討
  • 外注費の分割発注の検討

予算を上回る不必要な原価発生を抑えるために、資機材や人件費、外注費を削減できないか再度検討しましょう。

3.実行予算と実際原価を比較する

適切な原価管理を行うために、定期的に実行予算と実際原価を比較して、差異がないか確認しましょう。週次・月次などで期間を決めて、原価の実績値を集計します。材料費・労務費・経費などの項目ごとに、実際の支出金額を集計し、実行予算と比較します。

工種や工程で内訳を分けて、実際の支出と実行予算を比較する作業も重要です。納期遅れや資材ロスがあれば原因を分析しやすいです。

工事原価全体の実績と、実行予算との差異をグラフなどを用いて比較しましょう。原価管理の課題を早期発見できます。

4.施工計画の見直しや修正を行う

実行予算と実際の原価を比較して、差異が生じている場合は、施工計画の見直しや修正が必要です。まずは差異が発生した原因を突き止めます。以下のような様々な原因が考えられます。

  • 作業の手戻り
  • 工程の遅延
  • 設計変更
  • 資機材単価高騰

原因が判明できたら対策案を考えます。工程の変更や人員の増減、施工方法や資材の見直し等です。人員計画や資機材発注計画を修正して、原価の変動額を試算し、収支の見通しを立てましょう。実現性がある修正計画を作成し、それに基づいてさらに工程を進めます。

5.修正後の結果を評価する

施工の修正計画を実施したあと、その結果を評価します。評価する際は、原価の実績や工程状況を見て、修正計画通りに目標を達成できているか確認します。実行予算と実績に差異があれば、施工計画を見直しましょう。

うまく改善できている場合は、工程の流れを振り返り、見積や発注、施工管理の各段階で問題点や改善点がなかったか洗い出して評価します。

工事が無事に完工したあとは、次回以降の工事のために、これまでの経験や課題を活かして原価管理の改善点をまとめましょう。

施工管理における原価管理で覚えておきたい用語

施工管理において、適切に原価管理するためには専門用語の理解が必要です。原価の内訳を把握して、予算設定や実績評価を行うために、必要な用語の意味を理解しておきましょう。主要な原価管理の用語を解説します。

見積原価

見積原価は、工事受注の際に見積りする予定原価です。過去の実績データや市場動向を鑑みて、適正な水準の原価を見積りします。見積原価には以下の内容が含まれます。

  • 材料費・労務費・経費などの直接工事費
  • 現場運営に関わる間接工事費
  • 本社経費などの一般管理費

見積原価が市場データよりも高額であれば受注できない可能性があるので、採算が合うように適切な見積原価を設定します。

実行予算

実行予算は、工事に対して設定される目標原価です。施工中は、実行予算に対して実際に発生した原価を比較していきます。

実行予算の設定は、見積原価をもとに原案を作成し、受注金額が確定後、実際の施工条件を反映して決定します。実際原価との比較をしやすくするために、工種別・工程別で実行予算の内訳を組んでおくことも重要です。

工事の進捗に合わせて、実行予算と実際の原価を比較し、予算超過リスクに備えましょう。

発注金額

発注金額は、メーカーや施工業者に発注した際の金額です。資機材金額や労務金額、設備機器の金額など、様々な発注金額があります。

工事原価を構成する重要な金額ですが、現場での直接発注も多く、実行予算とかけ離れる場合があります。そのたびに、正しい発注単価を見直す必要があるので、実際の原価を正確に管理しないといけません。

原価実績

原価実績は、工事を施工する過程で発生した原価の総額であり、実行予算との差異を確認するための実績値です。材料費・外注費・経費などの費用が適切で、収支のバランスが取れているのか確認するために使用します。次の工事への適正な原価管理にもつながります。

施工管理における原価管理が難しい理由

施工管理において、正しく原価管理を行うことは難しい課題です。工事現場では、設計変更や資材高騰などの様々な要因が多く、予算との差異が生じやすいためです。

原価構成の内容が多く、すべてを正確に把握することも難しいです。見積りから完工までの長い期間で、管理すべき情報が多すぎます。その中で、困難な原価管理を適正に行って、工事を予算内に収めないといけません。原価管理が難しい理由を詳しく解説します。

特別な会計基準を使用する

施工管理における原価管理が難しいのは、特別な会計基準を使用しないといけないのが理由です。一般企業の経理とは異なり、建設業では工事別に原価を集計する「建設業会計」という経理業務が必要です。建設業会計の勘定科目を以下に示します。

  • 完成工事高:工事完了時の収益
  • 完成工事原価:材料費・労務費・外注費・経費など
  • 完成工事総利益:完成工事高から完成工事原価を差し引いた利益
  • 未成工事支出金:工事完成前に発生した費用
  • 完成工事未収入金:工事完成したが未収入の金額
  • 未成工事受入金:工事未完成で受け入れた請負代金
  • 工事未払金:工事費の売り未払いの金額

このような特殊な勘定科目があるので、一般企業と比べて原価集計や管理が複雑になります。

原価構成に外注費が含まれる

施工管理における原価構成には外注費が含まれます。一般的に、原価には材料費・労務費・経費が含まれていて、外注費は含まれません。建設業の原価構成では外注費が大きな比重を占めることで、原価管理を難しくさせています。

建設業の外注費は、工事の一部を外部業者に発注した際に発生します。外注の種類は、労務外注・一式工事外注・機器レンタル外注など複数あります。外注か、自社施工かの線引きによって、外注費か労務費かの分類が変わる点に注意してください。

独特なタイミングで売上や原価を計上する

建設業の原価管理が難しいのは、独特なタイミングで売上や原価を計上することが大きいです。建設業は工事を完了するまでに長い期間を要するので、工事の進捗度合いに応じて、売上や原価を計上しないといけません。この計上方法を「工事進行基準」といいます。

決算期をまたぐ工事の場合、未完成の工事で費用が発生すれば「未成工事支出金」を計上し、工事が完了すれば「完成工事原価」に振り替えます。工事の進捗状況によって、売上や原価が変わり、予算管理や損益計算が複雑になることで原価管理を難しくしています。

工事費の構成が細分化されている

建設業の原価管理が難しいのは、工事費の構成が細分化されていて複雑という理由もあります。工事費は大きく分けて以下3つの項目に分けられます。

  • 直接工事費:材料費・労務費・直接経費など
  • 間接工事費:共通仮設費・現場管理費など
  • 一般管理費:経営に必要な営業費など

間接工事費に含まれる共通費は、工事に間接的に必要となる費用です。仮設事務所や足場、現場監督の給与などが含まれます。しかし、営業担当や営業事務など、工事に関わらない人件費は間接工事費ではなく一般管理費です。原価構成が細かいので、原価に含まれるのか、含まれないのかといった観点が難しい部分です。

施工管理における原価管理のポイント

施工管理における原価管理を適正に進めるポイントを紹介します。正確性が重視される原価管理を、適切に進めるにはデータ収集や改善点の特定が必要です。要点を押さえて実務に取り入れましょう。

データは正確かつ迅速に収集する

原価管理で欠かせないのが、データの正確性と迅速に収集するスピード感です。現場から、材料費や労務費、機器費用などを収集して、損益計算を行い原価を把握します。原価差異があれば原因究明と対策を講じてコスト削減へ迅速に進めます。

現場関係者全員に、正確なデータ入力の重要性を理解してもらいましょう。正しいデータを迅速に集めることで、予算の面から工事を成功させます。

生産工程の改善点を特定する

原価管理では、生産工程の改善点を特定して、原価削減の切り札を得ることができます。現場担当と連携して、非効率な作業がないか、生産性の悪い機器類はないか確認しましょう。作業における改善点を洗い出し、機器類は必要に応じて新しいものに買い換えて、工事全体の質を改善します。

生産工程の改善点を特定して、実際に改善することでコスト削減と利益向上につながります。このように原価管理によって工事全体の生産性を改善できます。

原価管理システムを導入する

難しい原価管理を効率的に進めるには、原価管理システムが有効です。原価管理システムを使うと、必要な数値を入力するだけで原価計算や原価差異分析、予算管理まで一元化できます。多くのシステムで原価管理と同時に見積書や請求書の作成も可能です。

おすすめの原価管理システム

原価管理システムは様々なものがありますが、大きく2つに分けることができます。

1つ目はクラウド型です。インターネットにつながっていればどの端末からでも使うことができ、導入費用も比較的安いのが特徴です。
2つ目はオンプレミス型です。セキュリティ面に強く、不正アクセスなどのリスクからも守ることができます。
それぞれのタイプでおすすめのシステムは以下です。

クラウド型 アイピア
機能や料金などの詳細はこちら
オンプレミス型 MIYABI
機能や料金などの詳細はこちら

建設業でのおすすめの原価管理システム紹介の記事はこちら

建設業における工事原価管理とは?原価管理のメリットや難しい理由も解説!

施工管理 安全管理施工管理における安全管理とは?業務内容や必要なスキルなどを解説

【まとめ】施工管理における原価管理は利益の確保につながる重要な役割を担っている!適切に計算しよう

本記事では、施工管理における原価管理について、役割やメリット、進め方、難しい理由を解説しました。原価管理は工事の実行予算と実際の原価を比較して、差異を確認するための重要な要素です。建設業の原価項目は一般企業と異なるので難しい部分が多く、必要な知識を理解して進めないといけません。

正しく原価管理を行うと、コスト削減や適切な価格設定、迅速な経営判断など様々なメリットにつながります。そのためには現場と連携して正しいデータ収集が必要です。施工管理者と現場担当、事務員、経営者まで、社員全員で原価管理のポイントを意識して、工事を成功させましょう。

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