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建設業の会計や実務に従事する皆様は、日々の業務の中で「工事進行基準」と「収益認識基準」の適用を考えることが多いのではないでしょうか。これらの基準は似て非なるもので、適切に使い分けることが求められます。
しかし収益認識基準の導入により、多くの企業が経理処理や業績評価の方法に変更を迫られる状況となりました。今回は、工事進行基準と収益認識基準の違いと、収益認識基準導入後の影響について詳しく解説します。
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工事契約基準と新収益認識基準の違い
新収益認識基準は2021年4月1日以降に開始する事業年度から、一部の企業に対し適用されました。それに伴い、建設業では工事契約に関する会計基準(工事契約基準)が廃止されました。
新収益認識基準は、売上に関しての認識や財務諸表への反映を定める新しい基準です。ここでは、工事契約基準と新収益認識基準の違いについて解説します。
工事契約基準 | 新収益認識基準 | |
---|---|---|
判定基準 | 工事契約について下記3つを信頼性を持って見積もりできるか。
| 履行義務について、下記のどちらに該当するか。
|
判定内容 |
|
|
収益認識 |
| 履行義務の充足度合いにより一定期間にわたって収益を認識:A 履行義務が充足された時点ですべての収益を認識:B |
工事進行基準と収益認識基準の関係は?
新しい収益認識基準では、工事進行基準も履行義務が充足した時に認識するといった原則が採用されます。
収益認識基準においては、次の3要件が工事進行基準を採用するかどうかが判断ポイントとなります。
- 企業が顧客との契約における義務を履行するにつれて、顧客が便益を享受すること
- 企業が顧客との契約における義務を履行することにより、資産が生じる又は資産の価値が増加し、当該資産が生じる又は当該資産の価値が増加するにつれて、顧客が当該資産を支配すること
- 次の要件のいずれも満たすこと
- 企業が顧客との契約における義務を履行することにより、別の用途に転用することができない資産が生じること
- 企業が顧客との契約における義務の履行を完了した部分について、対価を収受する強制力のある権利を有していること
このように新しい収益基準では、工事進行基準の進捗度の認識が厳密になりました。合理的に見積もることができる場合のみ、収益認識できます。
ここからは、工事進行基準と収益認識基準の関係を詳しく解説します。
収益認識基準について
新しい収益認識基準は、売上の認識と財務諸表への反映を新たに定めた基準です。以下5つの流れで、提示しています。
- 契約の識別:契約の成立や目的を把握する
- 履行業務の識別:契約の中に含まれる履行義務を把握する
- 取引価格の算定:契約の取引価格を把握する
- 取引価格を配分:取引価格を履行義務に配分する
- 収益の認識:履行義務には「一時点」で充足するものと「一定期間」で充足するものがある
収益認識基準では1~4で明確化した履行義務に従い、それぞれの履行義務が充足したタイミングで売上計上できると定義しています。
工事進行基準について
建設業における収益認識基準の導入により、これまでの「工事契約に関する会計基準」とその適用指針は廃止されました。
そのため、工事を進めながら工事が終了する期間までに売上や経費を分散して計上する方式だった工事進行基準と、請け負った工事が完了し引き渡したところで売上と経費を計上する方式だった工事完成基準は、以下の通りに識別することとなりました。
- 工事進行基準:一定期間で充足するもの
- 工事完成基準:一定時点で充足するもの
ただ、工事の進捗度が確実でないケースで、従来の工事完成基準を適用していた場合は、別の扱いをとらなければなりません。その場合、「原価回収基準」という方法を採用することとなります。
こうした基準の扱いの変化により、建設業の収益認識方法はより明確かつ合理的になりました。
工事進行基準の廃止についてはこちらの記事でより詳しく解説しています。
工事進行基準はなぜ廃止された?建設業で知っておくべき「新収益認識基準」についてご紹介!
原価回収基準について
原価回収基準は売上や原価、進捗度が未確定の際に、発生した原価と同額の売上を計上できるルールです。売上や原価などが定まっていなくても、売上を計上できるため、工事進行基準より緩い点が特徴です。
特に建設業界において、契約金額や予算が定まる前に工事が開始するケースが少なくありません。そうした状況での売上計上のために、この基準が採用されています。
具体的には、「収益(売上高)=原価」という形式となります。総原価や予算が明らかになった時点で、原価回収基準は終了し、工事進行基準へ移行しなければいけません。
収益認識基準が導入されたことによる影響は?
2021年4月から売上の計上方法が変わりました。建設業界における経理の取り組みは、業界特有の状況を考慮しながら進められています。新たな収益認識基準の導入は、建設業界にどういった影響を与えるのかを解説します。
契約の識別
民法上、契約成立は当事者間の合意によって確定されます。しかし建設業界においては、合意のタイミングを一律に定めることが難しいケースも少なくありません。
先ほど解説したように、建設工事では金額や工期が未確定でも、計画が固まっている部分の工事を始めることは多々あります。そのため契約内容の明確な合意が欠ける状況でも、工事進捗を基に実質的な契約成立とみなすことは珍しくありません。
商業施設の工事を例に挙げて考えてみましょう。異なる契約相手からのテナント工事でも、内容が一体的であれば単一の履行義務として会計が行われます。しかし一つの契約内で内容が異なる場合、履行義務の評価は分けられることも考慮する必要があります。
履行義務の充足
履行義務の充足においては、その期間が中心的な判断基準となります。具体的には、一定の期間を要する履行義務と、ある時点で完了する履行義務の2つに大別されます。
実質的な判断に基づき、一定の期間を要する場合、進捗に応じて売上の計上が可能です。ある時点で完了するケースでは、履行義務が完了した時点で売上が確定されます。
このように、履行義務の充足の仕方や期間に応じて適切な会計処理が必要です。適切な判断により、事業の健全性と透明性を維持することが求められます。
【まとめ】工事進行基準は処理方法を変えて収益認識基準に引き継がれている!
「工事進行基準」と「収益認識基準」は会計処理の適用基準であり、収益認識のポイントが異なります。収益認識基準の導入により、企業の経理処理や業績評価方法には変更が必要となりました。
特に建設業界では、実際の契約や工事進捗に合わせた適切な会計処理が求められています。2つの基準の違いを把握し、適切な会計処理に取り組みましょう。
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