建設業の3Kイメージや少子高齢化の影響で、建設業界は慢性的な人手不足が続いています。
特に建築業の若手離れは顕著に現れています。しかし、どうしてそこまで若者が建築業から離れていくのでしょうか。
若手不足は人が足りないという問題だけではなく、技術継承や伝統継承に大きな影響を与えます。
本記事では、建築業の若者離れの原因とその対策について解説します。
建築業に就職を考えている若者や人手不足に悩まされている企業は、参考にしてみてください。
若い人が建設業をオワコンと思っている理由7選
日本の総人口は、2008年に1億2,808万人をピークに減少傾向にあり、高齢者の割合も世界でも最も高く、29.1%に達しています。
少子高齢化の影響もあって、建設業界では人材不足が深刻化しています。
建設業界全体における55歳以上の就業者の割合は約36%で、一方で29歳以下の若手就業者は約12%と、就業者の高齢化や若者離れが進行しています。
若者離れが進行している原因は、建築業特有の労働形態や賃金形態などです。
ここでは、建築業界で若者が離れてしまう原因について解説します。
理由1.休日が少ない
建設業は長時間労働が一般的で週休2日制を採用している企業が少ないため、若者の離職率が高まっています。
建設工事全体のうち、4週4休以下の就業形態が約4割であり、週休2日制を導入している企業はおよそ2割しかありません。
この業界において休日が少ない理由のひとつは、多重下請け構造です。この構造により、業務が下請け企業へ流れるほど中間マージンが発生し、下層の企業ほど受け取る利益が少なくなります。下請け企業が利益を得るためには、厳しいスケジュールに対応する必要があります。工期が長くなるとコストも上昇するため、下請けの零細企業や小規模事業者にとっては厳しいでしょう。
理由2.労働時間が長い
建設業は労働時間が比較的長く、このことが若者から敬遠される理由のひとつです。
厚生労働省の調査によると、建設業の月間労働時間は165.3時間で、他の産業に比べて30時間以上も多いとされています。
近年、長時間労働や違法な残業が問題視され、働き方改革関連法が施行され、時間外労働の罰則付き上限規制が始まりました。かつては特別条項付き36協定により、法定時間を超えた労働が認められ、実質的に無制限の残業が認められていた時代もありましたが、現在は上限規制が設けられ、時間外労働に上限が設けられるようになりました。
建設業界も2024年4月から上限規制の対象となるため、労働環境の改善が求められています。
理由3.3Kである
建設業界は昔から、きつい、汚い、危険と言われてきた業界であり、労働環境の改善は進んできましたが、他の業界に比べてまだまだ3Kなイメージがついているのは事実です。
夏場は暑さに、冬場は寒さに、そして雨や雪の中でも働かなければいけない厳しい労働環境があることは今も昔も変わっていません。
トイレは仮設で汚いため、作業着のまま電車に乗ると周囲から嫌がられることもあります。
死亡事故の数は減少傾向にあるものの、まだまだ発生していることも現実です。
このような状況の中で、建設業界は改善に向けて努力してきていますが、他の業界に比べて労働環境が悪いため、若者からは受け入れられにくいという現状があります。
理由4.収入が不安定
建設業において若者離れが進んでいる原因のひとつに、不安定な雇用形態もあげられます。
建設業界には、現場作業を主体とする業務が多く、天候不順により作業が中止になるケースもあります。
東京商工リサーチによる調査では、建設業に従事する労働者の31.6%が日給月払い制を採用しており、不安定な雇用形態で働いている人が3割以上にも及ぶことがわかっています。
例えば、左官工が担当する外壁の漆喰仕上げや土間コンクリートの金鏝仕上げなどは、天候不順により作業が中止になることがあります。資金力の乏しい零細企業や小規模事業者では、休業手当を支給することができず、休日扱いにする場合があるため、不安定な雇用形態が長期化することがあります。
このような現場の有無や天候により収入が左右される状況は、若者にとって将来のライフプランを考える上で大きな不安要因となる可能性があります。
理由5.人間関係
建設業界だけでなく、どの業界でも、先輩たちの趣味や話が理解できず、職場で孤立してしまうことがあります。とくに高齢者が多い建設業界では、若者と趣味が合わないことが多く、孤立することが起こることがあります。
このような場合、年長者が若手に寄り添うことはもちろん大切ですが、最も有効な手段は、同世代の複数人を同時期に採用することです。しかし、採用が難しい時代に複数の新人を採用することは容易ではありません。そこで、面接時に人柄を見極め、教育係として性格が合いそうな先輩をつけることで、まずは相談できる相手をつくり、その後会社になじんでもらうことが現実的な対策方法といえます。
理由6.働き方が特殊
建築業は日給×出勤日数で月給が決まります。基本給というのが一般的にはないので、出勤しないと稼げません。そのため、梅雨の時期や台風が多い時期は月給が少なくなってしまいます。他にも、日によって早朝出勤や夜勤出勤しなければいけなく、働き方がサラリーマンと比べると特殊です。
安定しない収入や雇用形態、特殊な働き方は現代の「安定」を求めている若者にとっては避けられがちです。働き方は職業柄、どうしようもないので若者離れを防ぐためにも、面接の段階で見極めて離職率を下げるしかありません。
理由7.室内での労働が出来ない
建築業は当然ながら、屋外での労働が基本で在宅勤務をすることはほとんどありません。
屋外での労働は厳しい暑さや寒さの中行われ、そういった厳しい環境でも働ける体力が必要です。コロナの影響で在宅勤務が増えていますが、あくまでも「自宅でできる仕事は会社でする必要がない」だけです。
そのため、屋外で仕事をする必要がある建築業においては、まず在宅勤務はできないと考えておいた方がいいでしょう。体力が必要で、労働環境が過酷なので若者が想像とのギャップを感じるのも若者離れの原因と考えられます。
建設業界の実情
建築業界は若者離れが深刻な問題となり、技術継承や伝統継承に影響をおよぼしています。
その原因は人間関係、雇用形態、不規則な労働時間、給与などさまざまです。
しかし、建築業界の実情は若者離れだけではありません。慢性的な人手不足、労働者の高齢化、離職率の高さなど深刻な実情があります。
ここでは、建築業界の実情について解説します。建築業界に就職を考えている人は、自分が参入する業界がどのような状態なのかを確かめてみてください。
1.慢性的な人手不足
建築業界の深刻な実情は、慢性的な人手不足です。
建築業界は、他の業界と比べると有効求人倍率が高いのが慢性的な人手不足の原因と考えられます。有効求人倍率が「1」を上回れば「求職者<企業数」ですが、建築業界は分野によって変動しますが5.0前後が多いです。
企業5社が求人を出しているのに対して、働き手が1人となり慢性的な人手不足が見受けられます。
全職業の有効求人倍率が1.0前後であることからも、建築業界の人手不足がうかがえます。
2.労働者の高齢化
前述した通り、日本の少子高齢化の煽りは建築業界も影響を受けています。
そもそもの若者の求職者が少ないのに加えて、若者の離職も問題です。
全職種で労働者の高齢化は進行していますが、建築業界は若者離れもあって顕著に現れています。
慢性的な人手不足に加えて、労働者の高齢化が進行して次世代への技術継承が行われないのも、深刻な問題といえるでしょう。また、労働者の高齢化が進むことで新しく就職した若者が、人間関係をうまく構築できず離職してしまうケースもあります。
3.離職率が高い
建築業界は、過酷な労働環境や人間関係、雇用形態や働き方の特殊性などで離職者が出やすいです。
そもそも屋外での労働が基本となるので、厳しい暑さや寒さの中作業を行います。
そういった労働環境に対応できずにやめていく人が後を断ちません。
建築業界の平均年収は日本の平均年収を上回るも、夜勤と日勤や日給×出勤日で給与が出たりと労働時間の不規則性や給与の不安定さも離職の原因です。
企業側は面接で、業務に合っている人かを見極めなければいけません。
建設業界で若者離れを防ぐためには?3選
若者離れが進行している建築業界ですが、現状では人手不足による労働時間のしわ寄せや生産性の低下に繋がります。
若者離れが深刻化すると技術継承にも影響が出始め、建築の技術が次世代に受け継がれなくなってしまいます。建築業はマンパワーが重要な業界なので、人材が不足してしまうと受けられる仕事も受けられなくなってしまうでしょう。
そこで、人手不足を感じている会社では今すぐにでも若者離れを防ぐ対策が必要です。
ここでは若者離れを防ぐための具体的な施策について、詳しく解説します。
まずはできるところから、若者離れの対策を講じていきましょう。
対策1.残業時間の規制
2024年4月より、建設業にも残業時間の上限規制が適用され、違反した事業者は罰則の対象となります。
建設業界内では、「建設業の2024年問題」として注目されており、これを機に古い組織風土や企業文化を脱却し、ワークライフバランスを重視する絶好の機会といえます。
働き方改革を進め、労働環境を改善すれば、「きつい」「危険」「汚い」といった建設業のイメージを払拭し、若者離れを防止することができるかもしれません。
対策2.業務のデジタル化
近年は、働き方改革の推進や新型コロナウイルスの感染拡大などの影響もあり、テレワーク制度が様々な分野で導入されています。
テレワークは、時間や場所に縛られることなく働くことができるため、出産や育児、介護などの事情に合わせたワークスタイルを確立できるとともに、通勤時間の削減やコスト削減にもつながります。建設業のような現場作業が主体の業界では、テレワーク環境の整備は困難ですが、施工管理や経理業務など、一部の業務については対応可能です。
これらの業務については、テレワークを可として募集することで、多様な人材の確保につながるといえます。他にもドローン技術やDXを取り入れて業務をデジタル化すれば、労働時間に余裕ができるので若者離れも防止できるでしょう。
対策3.雇用の安定と給与アップ
建設業界の平均年収は511万円であり、国内全体の平均年収が443万円であることを考慮すると、決して低い金額ではありません。
しかしながら、建設業界は業務の肉体的負荷や作業の危険性が高く、賃金が十分に高いとは言えません。若者離れを防ぐためには、労働に見合った報酬を提供することが必要です。
そのためには、賃金や処遇を見直し、建設業界の財務体制を改善する必要があります。
また、建築業は前述通り日給×出勤日数で月給が決まるため、出勤しないと給料がありません。こういった賃金や雇用形態を見直すことも、若者離れを防ぐ対策となるでしょう。
【まとめ】建設業の若者離れは深刻。すぐに対策をしよう
日本の建築業界は少子高齢化の影響もあり、慢性的な人手不足が深刻な問題として挙げられます。
特に若者離れは進行しており、労働者の高齢化に繋がっています。若者離れの原因は、人間関係・給与・特殊な働き方などさまざまです。
企業は業務のデジタル化や残業時間の縮小、雇用の安定など様々な対策を講じる必要があるでしょう。建築業界に就職を考えている人は現状を再確認し、企業側は求人や内部制度など若者離れを防ぐための対策を早急に行いましょう。