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アスベストの法改正によって、施工業者は一定規模の解体や改修工事の際に、アスベスト含有の有無に関わらず、事前調査の結果を報告することが義務付けられるようになりました。
本記事では、2022年4月に行われたアスベスト関連の法令改正について、解体工事などに大きな影響がある点に焦点を当ててご紹介します。
また改正内容については、地方自治体など地域によって多少の差がある場合もあります。本記事とともに必ず各自治体のホームページなどで詳細を確認しましょう。
アスベストの法改正はいつから?
アスベストの法改正について、2022年4月1日にアスベスト関連の法令改正が行われました。
元々は、2005年に石綿障害予防規則が制定され、アスベストによる健康障害の予防対策の推進を図っていましたが、必要な措置が実施されていない事例が散見されたためです。そのため2022年に改めてアスベスト関連の法令改正が実施されました。
法改正後の対策は?
アスベスト(石綿)は平成18年(2006年)9月から輸入、製造、使用が禁止されていますが、それ以前に建築された建物や鋼製の船舶には使用されている可能性があります。建設業の解体や改修工事で石綿の粉じんを吸い込むと、肺がんや中皮腫を発症する恐れがあるため、適切な対策が必要です。
改正後の具体的な対策として、以下の項目が挙げられます。
- 工事開始前の石綿の有無の調査
- 工事開始前の労働基準監督署への届出
- 吹付石綿・石綿含有保温材等の除去工事に対する規制
- 石綿含有仕上塗材・成形板等の除去工事に対する規制
- 写真等による作業の実施状況の記録
さらに、元請施工業者には、一定規模以上の工事において、石綿の有無の事前調査報告が義務付けられます。
ただし、石綿の有無の事前調査はすべての現場で義務付けられており、報告義務がない場合でも調査が不要というわけではありません。
※参考:厚生労働省「改修工事に対する石綿対策の規制が強化されています」
アスベスト(石綿)とは?
アスベストは石綿とも呼ばれる、自然界に存在する天然鉱石の一種です。
アスベストは耐熱性や耐久性に優れており、なおかつ安価で加工が容易なため、建築材料や産業製品の製造に広く利用されてきました。1950年代から頻繁に使用されてきましたが、その使用用途は主に断熱材などです。
ただし、その後の研究により、アスベストが人体に対して深刻な健康被害を引き起こす可能性があることが明らかになりました。数十年後に肺がんや悪性皮腫などを引き起こすリスクがあると判明し、2005年と2022年の法改正により、その製造・使用について厳しく規定されています。
石綿障害予防規則(石綿則)とは?
日本においてアスベストを取り扱う作業場や労働環境に関する基準や規制を定めた法律です。
石綿障害予防規則は、アスベストによる健康被害を防止するために制定されており、作業者や労働者の健康と安全を保護することを目的としています。
石綿に関連する作業場や労働環境における健康被害を最小限に抑えるための基準や手続きを定めています。労働者の健康と安全を守るために、石綿取り扱い業務に従事する事業主や労働者は、この規則を遵守することが重要です。
【建設業向け】アスベスト法改正の7つのポイント
前述のアスベストの危険性に加え、2005年に石綿障害予防規則が制定された後も、必要な措置が十分に実施されていない事例が散見されました。
そこで、アスベスト法が改正され、より厳格なアスベスト取り扱い規制と健康被害予防のための措置が導入されました。この改正の目的は、建設業におけるアスベスト(石綿)による健康被害のリスクを最小限に抑えることです。
この章では、アスベスト法改正点を理解し、建設業界の皆様が知っておくべき7つの重要なポイントを紹介します。適切な対応を行うことで、安全な作業環境を確保し、作業者の安全を守ることができます。
ポイント1.事前調査の強化と記録
建築物の解体・改修などの工事対象となる全ての材料を、図面と目視でアスベスト含有の有無を調査する必要があり、その結果を3年間保存する必要があります。
改正前は図面または目視であった規定が、図面及び目視に変更となりより厳しい事前調査が必要となりました。
そして目視での調査で判断できない場合は、サンプリングと成分分析が必要となります。またこの事前調査をする者は、厚生労働省が定める講習を受講するなど認定された者が行う必要があります。
事前調査に関する記録は解体工事完了から3年間保存しなければならなくなりました。
ポイント2.罰則の創設
アスベストを扱う際の規定だけでなく、直接罰を与える改正もなされました。アスベストを取り扱う作業の際に一定条件下では隔離が必要とされます。
また事前調査の結果報告が必要とされていますが、それらが遵守されない場合などは直接罰せられる規定が制定されています。
さらに元々は作業基準の遵守義務は元請業者のみに課せられていました。しかしこの改正でさらなる作業基準遵守徹底のため下請け業者にも課されるようになりました。
ポイント3.規制対象の拡大と作業基準の更新・新設
アスベストを規制する対象がレベル1・レベル2だけでなく、レベル3まで拡大され、アスベスト含有建材の全てが規制対象となりました。
アスベストのレベルは以下の通りです。
レベル1:吹付け石綿等
レベル2:石綿含有保温材・石綿含有断熱材・石綿含有耐火被覆材等
レベル3:石綿含有成形板・石綿含有仕上塗材
また、それぞれレベル毎の作業基準も見直しもされています。
ポイント4.除去作業完了後に有資格者の確認の義務付け
除去などの工事が終了し、作業場の隔離を外す前に有資格者がアスベストの取り残しがないかの調査が必要です。
ポイント5.時前調査結果の報告を義務付け
定められた規模以上の解体・改修などを行う場合は、アスベスト含有有無に関わ
らず、事前調査結果の報告が義務化されています。
報告義務が発生する条件は以下の通りです。
- 床面積合計80平米以上の解体工事
- 請負代金100万円以上の改造、補修作業等
国が定める解体・改修工事が対象となるため、詳細は厚生労働省のHPなどで詳しく調べておきましょう。またこの事前調査の結果報告を怠った場合は、前述の直接罰の対象となる場合があるので、注意しましょう。
ポイント6.事前調査行う者に対して資格要件を設置
前述の事前調査について、事前調査を行なうための資格が設けられました。
建築物の事前調査は誰もが行えるわけではなく、新たに設けられた厚生労働大臣が定める講習を修了した者等が行う必要があります。または一般社団法人日本アスベスト調査診断協会に登録された者や、アスベスト作業主任者かつアスベストの除去等の作業経験を有する者などがこの事前調査にあたることができます。
そして2023年10月からは一般建築物石綿含有建材調査者や特定建築物石綿含有建材調査者など、限られた有資格者のみが調査を行うことができるようになります。
ポイント7.作業実施状況の記録
アスベスト含有の建築物や工作物を解体・改修など工事を行う場合は、作業状況を写真または映像で記録する必要があります。なおかつその記録を3年間保存するよう義務付けられました。
アスベストの法規制が強化される背景とは?
ここ数年でアスベストの法規制はかなり厳しく強化されています。その背景には様々なことがあります。
まずはアスベストによる健康被害の深刻化です。アスベストは長期間の曝露により、重篤な呼吸器疾患やがんを引き起こす可能性があります。そのため、労働者だけでなく、近隣の一般市民の健康を守るために、アスベストに対する規制が必要とされました。
アスベストは微細な繊維が空中に浮遊し、吸入することで健康被害を引き起こすため、その取り扱いは非常に難しいです。なおかつ30~40年後にその影響は表面化する場合もあり、厳しく取り締まられるようになりました。
また今後、厳しく規制される前、アスベストが使用されている建築物の解体・改修工事が増え、さらにその影響を受けることが多くなると考えられています。そのため現時点で様々な対策を講じているという背景があります。
【建設業向け】アスベストの法改正による注意点は?
建設業では作業者の労災被害に特に注意する必要があります。アスベスト対策作業による健康被害で訴訟が複数件発生しており、改正後の基準を守らないと損害賠償を命じられる恐れがあります。
保険でカバーできないリスクもあるため、従業員の安全管理体制を強化し、作業前にアスベスト含有状況を詳細に調査して、必要な対策を講じることが重要です。
改正アスベスト法では、作業者の労災被害を防ぐために、下記のような対策が求められます。
石綿含有の有無を確認:海外から輸入した資材を使用する際には、資材に石綿が含有していないことを確認する
呼吸用保護具の使用:アスベスト粉じんの吸引を防ぐため、作業者に呼吸用保護具を装着させる
石綿作業者の健康診断:石綿作業やその周辺作業に常時従事する労働者に対して石綿の健康診断を行う
これらの対策を徹底することで、作業者の労災被害を防ぎ、安全な作業環境を確保することができます。建設業者は、作業者の安全を第一に考え、適切な対応を行うことが求められます。
作業者の労災被害
建設業界におけるアスベストの法改正により、作業者の労災被害が注目されています。
アスベストによる健康被害も、業務との相当因果関係が認められれば、「業務上疾病」とみなされ、労災保険の適用対象となります。
労災保険給付の対象は通常、労災保険が適用される事業場で雇用されている労働者に限られます。ただし、個人事業主などの一人親方でも、労災保険に特別加入していれば対象となります。
アスベスト調査の4ステップ
アスベスト調査は、建物や施設内におけるアスベストの有無や状態を把握するための調査です。
アスベストは主に建物の構造材や断熱材、防音材、床材などに使用されている場合がありますが、そのまま放置されると繊維が飛散する場合もありますし、解体・修繕を行う際に健康被害を引き起こす可能性があるため、事前調査を行ったうえで実際の作業に取り掛かることになります。
そしてこのアスベスト調査は専門的な知識と技術をもつ者によって行われます。調査結果に基づいて、解体・修繕の適切な手法を検討し健康被害の予防が図られます。
1.アスベストの使用有無の調査
まずは設計図等の書面からアスベストの使用有無を確認します。書面から、施工時期、建築材料などを確認し、アスベストが使用されている可能性のある箇所や使用材料、施工方法などを特定します。特に、断熱材や防音材、天井材、壁材、床材などがアスベストの使用箇所として主です。ここでアスベストの有無についてある程度の目途をつけます。また疑わしい箇所なども合わせてチェックします。
設計図書等による書面調査は、建物や施設のアスベストリスクの初期評価において重要な手法です。ただし、完全な情報を得ることができない場合もあるので注意をしましょう。
2.現地調査
次に現地調査を行います。前述の書面調査での情報をもとに、建物や施設内を実際に目視で調査します。壁、天井、床など建物や施設内部を直接調査し、アスベストの使用有無や使用箇所、繊維の状態を詳細に把握することが目的です。
目視調査で疑わしい箇所が見つかった場合には、サンプル採取が行われることがあります。試料は専用の器具を使用して採取され、後で詳細な分析が行われます。
現地目視調査は、アスベストの具体的な状況を把握するために非常に重要な手法です。しっかりと行いましょう。
3.サンプルの採取・分析
目視調査で疑わしい箇所、使用材料が不明な部分が見つかった場合には、サンプル採取し、詳細な分析が行われます。この際、専用の保護具を着用し、作業現場を封鎖するなどの適切な安全対策を講じることが必須です。
そしてサンプルは、専門の研究所で分析が行われます。一般的には、光学顕微鏡や電子顕微鏡などの機器を使用して、アスベスト繊維の特定や濃度の測定が行われます。アスベストの種類や繊維の長さ、形状なども評価されます。
この分析結果は、その後の報告や産業廃棄物処理の際に提示する証拠として必要なので必ず保管しましょう。
4.報告書の作成
最後にこれら一連の調査の報告書を作成し、元請業者などに報告を行う必要があります。元請業者は、工事開始前までに都道府県等へ報告する必要があります。一連の調査で収集したデータと評価結果をもとに書類を作成。報告書はリスク管理の提案なども含め法的な要件や規制に従って作成される必要があります。
また報告にはGビズと呼ばれる電子申請システム登録が必要です。そしてアスベスト含有が確認された場合、適切な処置が必要になります。
その他のアスベスト法規定について
最後に、その他にも存在するアスベスト工事の法規定をご紹介します。いずれの法規定もアスベストの健康への影響や環境への悪影響を最小限に抑えるためです。アスベスト関連の作業や取り扱いに従事する業界や企業は、これらの法規定を遵守し、安全な作業環境を確保するための対策を実施する必要があります。
個人や一般の人々も、アスベストに関する法規定やガイドラインに従い、適切な対応をすることが重要です。またアスベストに関する法規定は県や地域によって異なる場合がありますので、各自治体のHPなども併せて確認しましょう。
1.廃棄物の処理基準等
これは、アスベスト廃棄物の処理及び清掃に関する法律です。アスベストを含む廃棄物の適切な処理や清掃を目的として制定されました。アスベスト処理法は、アスベストによる健康被害を防ぐため、アスベスト廃棄物の発生源から処理・管理までを規制し、安全な環境の確保を図ります。
アスベストを廃棄する場合は、専門の資格をもつ業者に処分を依頼しなければならないなど、アスベスト含有産業廃棄物の適正かつ確実な処理基準等を定められました。
2.建築基準法による石綿規定
2006年10月以降に着工する建築物では、建築基準法においてアスベストについて規定されています。基本的にアスベスト飛散の恐れがある建築材料の使用を禁止。増改築時には原則として既存部分のアスベストの除去を義務付けています。
また耐火材料や断熱材としてのアスベストの使用は制約されています。経年劣化等で放置するとアスベスト飛散の恐れがある場合には、除去等の勧告・命令ができると定められました。
3.労働安全衛生法
この法律は、労働場所における安全な環境を維持するための規制や基準を定めており、労働者のアスベストによる健康被害を防ぐための規定も含まれています。
アスベストに関連する作業に従事する場合、適切な対策を講じる責任があります。労働者のアスベストへの曝露を最小限に抑えるための作業方法、保護具の使用、換気設備の整備などが義務付けられました。
その他にも除去作業の届出や事前調査、作業主任者の選任、業場所の隔離、立入禁止などの規定が定められました。
4.建築廃棄物のリサイクル
建設リサイクル法では、解体工事等の際、解体工事前に適切な届出や申請を行うことを規定しています。また決められた分別を行い、建築廃棄物のリサイクルを妨げないようにすることなどを規定しています。
一般的には、アスベストを含む廃棄物は密閉された容器に封入され、専用の処理施設に運ばれ、専門業者によってアスベスト含有廃棄物の処理が行われます。
アスベスト含有廃棄物でも、特定の処理を経た後、リサイクルが可能な場合があります。ただし、アスベストを含む廃棄物のリサイクルは厳格な規制があり、安全性の確保が必要です。
アスベスト含有廃棄物の処理やリサイクルに関する詳細な情報は、地域の関連機関に相談しましょう。
アスベスト除去工事の簡単な流れをチェック
ここではアスベスト除去工事の簡単な流れをご紹介します。
まずは事前調査を行います。図面等を確認したうえで現地確認を行い、必要に応じてサンプル採取。
次に採取したサンプルの分析を実施。取得サンプルを専門の分析機関に提出し、アスベストの含有有無を調査。調査後は公的に認められる文書として証明書を発行します。これらの調査結果をもって書類にまとめます。アスベスト含有が確認された場合は、施工計画書を作成が必要です。
次に管轄官庁に除去作業の申請手続き・届出を行います。ここまで完了し、作業にあたることができます。
実際の作業に移る際には、アスベストの飛散を防ぐため養生・隔離を行い、実際の作業が始まります。作業完了後は建設リサイクル法などに乗っ取り、産業廃棄物の処理を実施。最後に事前調査結果・作業計画書・施工中の状況・廃棄物マニュフェストを報告書として整理し、管轄官庁に完了報告を行い、それらの書類を3年間保管します。
以上が、アスベスト除去工事の簡単な流れです。
【まとめ】アスベスト法改定を理解し、漏れのないように対応しよう
本記事では2022年4月に行われたアスベスト関連の法令改正について、解体工事などに大きな影響がある点に焦点を当ててご紹介しました。アスベストに関連する法律はいずれも、アスベストの健康への影響や環境への悪影響を最小限に抑えるために設けられています。
アスベスト関連の作業や取り扱いに従事する業界や企業は、これらの法規定を遵守し、安全な作業環境を確保するための対策を実施する必要があります。これらは作業員や建物の利用者、近隣住民の健康を守ることにもつながる重要な内容です。抜け漏れのないようにしっかりと確認しましょう。
解体工事でアスベスト調査・報告が義務化!罰則や手順についてはこちらの記事で解説しています。ぜひこちらもご確認ください。