深刻なインフラ老朽化問題。問題の背景や解決策を解説

現在のインフラは1960年代の高度経済成長期に集中して作られたものです。1960年代から半世紀過ぎた現在、インフラの老朽化問題が注目されるようになりました。水道管の破裂やトンネルの崩落など、さまざまな事故が発生しています。
インフラの老朽化に取り組むには、問題の背景を正しく理解したうえで解決策を講じることが大切です。
今回は、インフラ老朽化が発生している背景と原因・その解決策を解説します。

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インフラ老朽化とは

そもそもインフラとは、「インフラストラクチャー」といいます。これは「社会基盤や生活基盤」を指す言葉であり、国民の生活に欠かせないサービスや施設のことです。具体的には、以下のものが該当します。

  • 電気・ガス・石油などのエネルギーまたはそれらを供給する設備・施設
  • 病院・学校・住宅・公園などの日常で利用する施設
  • 港湾やダムなどの運輸や生活を支える設備や施設
  • 電話や通信・水道やガスなどを管理・供給する設備や施設
  • 鉄道や高速道路などの運輸に関わる建造物

これらの設備や施設は、金属やコンクリート・プラスチックやガラスなどをはじめとした、さまざまな人工物で作られています。そのため、災害などで大きなダメージを受けたり、経年劣化により機能が正常に動かなくなったりする可能性があります。これが、インフラ老朽化問題です。
インフラに該当するものを見ると分かりますが、どれも人が安全かつ快適に生活するうえで欠かせないものばかりです。インフラ老朽化は、すべての人が関わる大きな問題であるといえます。

インフラ老朽化問題が起きた原因

そもそも、運フラの老朽化問題はどうして発生しているのでしょうか。これには、日本の歴史が深く関係しています。日本のインフラは、第二次世界大戦により壊滅的に破壊されました。世界大戦後、インフラを一から作り直す必要にあった日本は、積極的に最新のインフラ設備を導入していきます。1954年に開始した高度経済成長・1964年の東京オリンピックの影響で、東京を中心にインフラが一気に整備されます。
2020年代から約60年前の出来事です。現在のインフラは、このときの設備や施設をいまだに使用しています。段階的に作成していけば、古くなったインフラから順に整備していけば問題ありません。しかし、日本は約60年前にすべて建設したため、老朽化による故障やその危険性が一気に発生するようになりました。結果、現在深刻な問題として扱われるようになったのです。

日本のインフラ老朽化の現状

インフラ老朽化の問題に対して、「古くて壊れ始めているなら、昔のように一気に修理すればよいのではないか」と考える方もいるかもしれません。
以下の図は、国土交通省のインフラ老朽化対策ポータルサイト「インフラメンテナンス情報」に掲載されているグラフです。建設後50年後を経過するインフラのうち、老朽化を迎えるものを述べています。

引用元:社会資本の老朽化の現状と将来-インフラメンテナンス情報

表によると、現在約73万橋ある道路や橋は、2023年時点で約4割が、10年後の2033年には約6割が老朽化した状態になることが分かります。
国土交通省では、インフラに不具合が生じてから修繕を行う「事後保全」でこれらの保全を行おうとすると、2028年の時点でも約5.8〜6.4兆円もの費用が必要であるといわれています。現在の日本の財政では、これらすべてを賄うほどの余力はありません。これも問題を深刻化させている原因であるといえます。

世界のインフラ老朽化の現状

インフラの老朽化問題は、日本だけの問題ではありません。さまざまな国でも発生しています。日本の現状と合わせて世界の現状を確認すると、問題がより詳細に見えてきます。次は、世界のインフラ老朽化がどのような状態を迎えているのか確認しましょう。

1.イギリス

イギリス・ロンドンのテムズ川に架かる橋のなかには、100年以上前に建設されたものもあります。1887年に建設された、ハマースミス橋も、そのひとつです。ハマースミス橋は2019年に橋脚に亀裂が見つかり、すべての自動車交通が無制限に閉鎖されました。しばらくして歩行者や自転車などの限定的な利用は再開されましたが、修繕工事は2023年現在でも続けられています。
工事費用には日本円にして約60億円はかかるといわれており、定期メンテナンスをしていた場合よりも高くなることから、大きな問題となっています。

2.アメリカ

インフラ老朽化問題の影響を受けているのは、イギリスだけではありません。日本と同じように1920年代から建設ラッシュが始まったアメリカでも、同じような問題が引き起こされました。
アメリカでは、1920年の建設ラッシュに加え、1933年に行われた「ニューディール政策」により大量のインフラが整備されます。このとき整備されたインフラは、1980年代から老朽化が問題視されるようになり、さまざまなトラブルを引き起こすようになったのです。
安全に使えなくなった橋や、大規模補修が行われるさまは「荒廃したアメリカ」とまで呼ばれるようになりました。
アメリカで発生したインフラ老朽化問題は、1960〜70年代に行われたインフラ予算削減が原因でした。予算が足りないことで維持管理や更新が満足に行われなくなったのです。
アメリカはこの失敗を通して、1980年代には増税を敢行・既存インフラの適切なメンテナンスを進めました。このことから、アメリカのインフラ老朽化問題は、現在の日本と似通う部分の多い問題であったといえます。

インフラ老朽化によって起こるリスクや事故事例

イギリスの事例を見ると分かりますが、インフラ老朽化は放置すると大きな問題に発展しかねない、頭の痛い問題です。日本でもすでにさまざまな事故が発生しています。次は、日本で発生したインフラ老朽化が原因のリスク・事故事例を解説します。

笹子トンネル 天井板崩落事故

インフラ問題の節目となった事件のひとつが、2022年12月に山梨県中央自動車道で発生した、笹子トンネル事故です。老朽化した笹子トンネルの天井板が崩落したことで、9人もの人がなくなりました。これを受けて、翌年1月には、国土交通大臣を議長とする「社会資本の老朽化対策会議」が発足しています。

広島県 砂防ダム決壊

広島県砂防ダム決壊事件は、2018年6月28〜7月8日にかけて発生した西日本豪雨により引き起こされた事故です。経年劣化した砂防ダムの幅50mの壁がほぼすべてなくなるという、異例の大規模決壊により多くの死者を出しました。
強度の足りない砂防ダムがあるのは、広島県だけではありません。そのどれもが予算や人員を用意できず、必要な対応ができていない状態です。

和歌山県 水管橋崩落

2021年10月には、和歌山県和歌山市の紀の川にかかる水道橋が、一部崩落しました。結果、紀の川北側にある地域6万世帯13万8,000人もの人たちが、1週間の間断水による被害を受け続けることになります。
水道橋は目視による点検がされていたものの、水道管の腐食による水漏れを見逃していました。もし新しい設備やシステムを導入していたら、被害を最小限に抑えることもできたのかもしれないといわれています。定期的な点検をしていても、人の手では限界があることがよく分かる事例です。

国によるインフラ老朽化に対する対策

日本各地で大きな問題を引き起こしているインフラの老朽化には、どのような対策が有効なのでしょうか。次は、日本が実際に行っている対策を確認しましょう。

インフラメンテナンス国民会議

「インフラメンテナンス国民会議」は、企業や研究機関・施設管理者・市民団体がインフラメンテナンスに取り組む機運を高める活動のサポートを行っています。以下5つの目的を満たすために、各種フォーラムやシンポジウムを開き、インフラメンテナンスの大切さを伝えています。

  • 革新的技術の発掘と社会実現
  • 企業などの連携促進
  • 地方自治体への支援
  • インフラメンテナンスの理念普及
  • インフラメンテナンスの市民参加促進

どんなにインフラメンテナンスが大切であると声を上げても、企業や市民が意識しなくては意味がありません。直接的な活動ではありませんが、インフラメンテナンスの大切さを伝え、企業や市民にその意識を浸透させるのは、重要な対策であるといえます。

インフラ長寿命化計画

「インフラ長寿命化計画」は、2014年5月に国土交通省が取りまとめた行動計画です。2021年6月にも第二次インフラ長寿命化計画が策定されています。インフラの寿命を延ばすだけでなく、インフラ維持のための継続的な取り組みもまとめられている計画です。
資料では、以下3つの対策をおこなうことで、持続可能なインフラメンテナンスの実現を目指しています。

  • 防災・減災・国土強靭化のための5か年加速化対策による予防保全への本格転換加速化
  • メンテナンス生産性向上の加速化
  • インフラストック適正化の推進

新技術や官民連携手法の促進によるインフラメンテナンスの生産性向上を目指すと明言されています。こちらは具体的な目標を立て、行動する対策です。

インフラDX 総合推進室の発足

建築業でも導入され始めているDX化は、インフラ老朽化問題でも採用されています。2021年4月には、国土交通省が「インフラDX総合推進室」を発足しました。
インフラDX総合推進室では、国土交通省・国総研などの研究所・地方整備局が手を取り合い、インフラのDX化に向けた活動を行っています。

  • インフラDX促進に向けた環境・実験フィールドの整備
  • 新技術開発・導入促進
  • DX化に向けた人材育成

インフラDXルームではデジタルツインなどの仮想空間も活用しています。新たな技術でイノベーションを起こすことも目的としており、民間先端技術の導入なども進めています。

IT技術によるインフラ老朽化の解決策

インフラ老朽化対策はさまざまな方向から行われています。IT技術による対策も、そのひとつです。次は、IT技術によるインフラ老朽化対策の解決策を解説します。

AIの活用

AIによる画像診断を活用することで、インフラ設備や施設に発生した劣化サインを読み取れるようになりました。現在、AIによる画像診断制度は著しく、医療などの精密な診断が必要な場でも活用されています。
ドローンにより撮影された画像からAIが異常を発見することで、人間の専門家では不可能な量の画像を一気にチェックすることもできるようになりました。従来よりも早く、正確にインフラの異常を発見できます。そのうえ、コストも人間の専門家を使用したときよりもかかりません。AIは、これからのインフラ整備には欠かせない技術となるでしょう。

ドローンの活用

AIとともに活用されているのが、ドローンによる撮影です。ドローンは人間が確認するときのように、足場を組んだり安全を確保する道具を用意したりする必要がありません。従来では安全を確保するのが難しかった高所や、人間では入り込めない場所も、安全かつ安価にチェックできます。ドローンを操作するだけで作業を完了できるため、現場の労働力不足の負担軽減にも役立っています。AIとともに、ドローンも今後のインフラ整備には欠かせない存在となっていくでしょう。

5Gの活用

AI・ドローンとともに活用されるようになるだろうといわれているのが、5Gによる超高速・超低遅延回線によるデータ送信です。ドローンで撮影した画像を5Gで送信することで、リアルタイム監視を可能にするといわれています。これにより、いち早く劣化や異常を発見することが可能です。
ドローン操作はわずかな遅延が致命的な事故につながる可能性もあります。5Gがより普及すれば、より安全にドローンを操作できるようになるでしょう。

RTK(Real Time Kinematic)測位の活用

「RTK」は、「Real Time Kinematic」の略で相対測位と呼ばれる観測方法です。衛星を活用することで、高精度の位置情報取得を実現する技術です。正確な位置情報が必要な、ドローン・農業機械の自動運転に活用されています。
従来のGPSでは誤差によってルートから外れたり、障害物に激突するなどのリスクが発生していました。RTKを用いれば、このようなリスクを回避し、安全な状態でドローンなどの技術を活用できます。これもドローン技術を合わせてインフラ老朽化対策に注目されているIT技術です。

インフラ老朽化対策に対する課題

インフラ老朽化対策には、定期的かつ正確な点検が必要です。しかし、和歌山県水道橋崩落事故のように、定期的な点検を行っていても事故が発生しています。このような事態を繰り返さないためには、点検や検査技術の向上はもちろん、技術者育成や確保が必要です。
これらの作業を安全かつ入念に行うには、たくさんの人員と機材を用意しなくてはなりません。しかし、地方自治体の土木関連技術者は減少傾向にあります。将来的には、必要な点検が十分に実施できない事態も発生するでしょう。
これらの事態に備えるためには、先ほどの章でも取り上げたようなテクノロジーの活用が有効です。これからインフラ老朽化の対策に乗り出すためには、IT技術の習得やDX化を積極的に進めていく必要があるといえます。

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【まとめ】インフラ老朽化問題の対策は確実に進んでいる!早急な対策が必要

インフラ老朽化の問題は、土木や建設に関わる人だけでなく町で暮らすすべての人に関わる問題です。資金や人材が足りない今、発生している問題に立ち向かうためにも、IT技術の習得や積極的なDX化に取り組む必要があります。来る日に備えるためにも、早急な対策を行いましょう。

インバートの必要性や工事の作業工程についてはこちらの記事で解説しています。ぜひこちらもご確認ください。

インバートとはインバートとは?必要性や工事の作業工程をわかりやすく解説

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