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建築や土木工事、製造などのプロジェクトをスムーズに進行するために、建築図面は欠かせない存在です。
その中でも見積もりの作成や建物を安全に施工するために必要な情報を把握するための「実施設計図」は、建築プロジェクトを成功させるために不可欠な図面として位置づけられています。
そして、実施設計図とひと言にいっても、用途ごとに多様な種類があります。
今回は各種の実施設計図の詳細と、他の図面とどのような点で異なるのかなど、ぞれぞれの図面の特徴と共に解説します。
図面に苦手意識をお持ちの方も、日常業務で使用する方も是非ご覧ください。
実施設計図とは
実施設計図(じっしせっけいず)とは、建築や土木工事などのプロジェクトにおいて、具体的な施工や製造を行うための詳細な図面を指します。
実施設計図の特徴として、「工事を発注するために作られたプロ向けの設計図」であることが挙げられます。
つまり、依頼主に説明するために作られた設計図に、工事を進めるための基本指針を示し設計意図や仕様を具体化した、より専門的な図面です。
実施設計図に具体的にどのような特徴があるのか、ほかの図面との相違点について、以下で解説していきましょう。
基本設計図や施工図との違い
前述したように実施設計図は、他の図面とは役割が異なります。どのような点で異なるのか、以下で2つに分けて各図面ごとに解説します。
- 基本設計図との違い
- 施工図との違い
基本設計図との違い
基本設計図は、依頼主からの意向をヒアリングしたうえで、建築基準法や都市計画法などの法令に基づき調整・設計した、いわば依頼主との合意形成のために作られた図面です。
建築物やプロジェクト全体を表しており、一般的に建築計画において初期の段階で用意されます。
対して実施設計図は、施工業者や職人が現場を把握するために、基本設計図より詳細で具体的な内容が記載されているという特徴があります。
施主向けの図面は基本設計図、施工事業者向けは実施設計図と分類できます。
施工図との違い
施工図は、施工業者や工務店が作成する、実際の現場の作業指示書として使われる図面です。
実施設計図に記載された事項に、さらに建物の寸法や資材の詳細、細部の作りなどの事項、現場作業の手順や情報などが付帯されています。
実施設計図が工事に関する基本的な情報と全体像を表しているのに対し、施工図は現場で作業する施工業者の視点で作られた図面という特徴があります。
「施工事業者向けの実施設計図」、「現場の職人向けの施工図」と覚えておきましょう。
実施設計図の種類
実施設計図は、建物の設計だけでなく、インフラの計画や外構計画など、建築計画において様々な段階で用いられます。そのため各用途ごとに様々な種類があるのが特徴です。
まずは、以下の3つに分けて各図面の特徴を解説します。
- 意匠図
- 構造図
- 設備図
意匠図
建物の外観やデザインを表す図面を意匠図と言います。
建物全体の形状や間取りなどの意匠を視覚的に伝えることを目的に作成されています。
意匠図は上から見た図面や横から見た図面など様々な種類がありますが、次の8種類の図面に分類できます。
- 平面図
- 断面図
- 立面図
- 矩計図
- 天井伏図
- 展開図
- 平面詳細図
- 配置図
平面図
平面図は別名「間取り図」や「プラン」とも言う、建物を水平に切断し真上から見た様子を表した図面です。
建築業界では、各階の床面から1メートルの高さを表すケースが多く見受けられます。
平面図には、建物内部の寸法、間取り、床高、開口部がどこにあるのか、建具・壁などの種類や位置という基本的な情報が表されています。
他の図面を作成する際の基本であり、複数の索引や見出しとなることも多い最もオーソドックスな図面と言えるでしょう。
断面図
建物の各階を、ある特定の位置で垂直に切断した内部構造を表す図面を、断面図と言います。
断面図は主に空間の高さを把握するために作成される図面で、高さ制限や建築基準法に違反しないかの確認申請のためにも用いられます。
天井高、地盤面や床面の高さ(GL/FL)、建具の高さ、梁の位置、開口部の位置などの、垂直方向に見える寸法を明確に表しています。
建物の内部構造を明らかにするだけでなく、建築基準法に違反しないかを示すという重要な役割もある図面です。
立面図
立面図は、建物の外観を垂直方向に真横から見た様子を表す図面です。
正面や側面、背面など、様々な角度から建物の仕様、開口部の位置、高さなどを確認する目的で作られています。
立面図には、建物の高さを主にした寸法と開口部の位置だけではなく、外壁や屋根材の仕上げ材、屋根の傾斜などのデザイン面に加えて、建物と地盤の接合部についても表記されます。
デザインや法規制への確認だけでなく、建物が周囲の環境といかに調和するかを考慮するためにも用いられている、重要な図面の1つです。
矩計図
矩計図は「かなばかりず」と読み、建物を特定の位置で垂直に切断した場面を表す断面図の一種ですが、床下や天井裏の記載があるという特徴があります。
建物や各階の床の高さ、基礎部分などの厚さや高さなどの寸法に加え、どのように仕上げるかという詳細や断熱の仕様なども記載されています。
矩計図は寸法だけでなく、建物の基礎、断熱性能や日照具合なども把握できるので、施工後の施主と施工者のミスマッチを防ぐ役割も果たしています。
天井伏図
建物の天井を下から見上げる角度で表した図面を、天井伏図と言います。
天井伏図には、天井の構造や寸法、電気設備、照明の配置、給排気口や天井点検口の位置、仕上げ材、配線の経路などが記載されています。
天井伏図にはデザインや寸法を表すだけでなく、メンテナンス作業がしやすく、安全性も確保できる住宅であることを確認する役割もあります。
工事の効率化を図りつつ、天井の性能や意匠性をアップさせるために欠かせない図面です。
展開図
室内の中心から、東西南北それぞれの方向を見た投影図を展開図と言います。
壁一面が正面から見た状態で表されており、天井高や開口部の高さや寸法、ドアや階段などの設備の配置、家具の高さや寸法などが一目で分かる仕様です。
コンセントの位置の確認や、キッチンと冷蔵庫やエアコンなどの電化製品の配置を決める際に役に立ちます。
平面図だけでは把握できない、建物の高さと建具との位置関係を明確に把握するために必要な図面です。
平面詳細図
平面図には記載していない、詳細な寸法や配置を正確に数字や文字であらわした図面を平面詳細図と言います。
平面詳細図はキッチンや浴室などの特定のエリアを拡大し、記載していることが多いのが特徴です。
壁の厚みや壁芯の寸法などの構造躯体、カウンターなどの建具の寸法、仕上げ材なども記載されます。
情報量が多く正しく読み取るためには、読み取り手にも3次元に落とし込むなどの工夫が求められます。
設計意図を明確に伝えるだけでなく、コスト管理を行う上でも役に立つ図面です。
配置図
配置図とは、周辺環境と建物の位置関係を表した図面です。
建物や駐車場や庭などとの敷地の寸法や位置だけでなく、敷地の高低差や方位、隣地との距離や隣地境界線なども記載します。
周囲との調和を図るために非常に大切な図面で、排水管の計画や外構計画を考慮する際にも用いられます。
車両の出入りや人が玄関までの動線を確保することも作成時には考慮しましょう。
構造図
平面図が建物のデザインや外観を表すのに対し、建物の安全性に関わる構造を表しているのが構造図です。
構造図は、以下の2種類に分類できます。
- 床梁伏図
- 軸組図
床梁伏図
床梁伏図は「ゆかばりふせず」と読み、建物の構造部分を上から見た様子を表した構造図面の1つです。
梁の寸法や部材や配置、接合部の詳細、梁が支える荷重の分散方法などに加えて、基礎や柱やスラブの構造が記載されています。
現場で職人が梁を適切に配置し、建物に安全性と強度を保持するために欠かせない図面となっています。
軸組図
梁や柱、壁などの構造材を用いて建物の骨組みを横から見た様子を表した図面を、軸組図と言います。
木造建築、鉄骨造建築で用いられており、柱や梁、母屋などの構造材の配置や寸法、筋交いや耐力壁の配置が記載されている図面です。
建物の骨組みを視覚化できるため、施工者への適切な指示が可能になります。
それだけでなく、建物の強度や安全性の確認にも役立ちます。
設備図
水道や電気、ガスなどのインフラの設備や配線について表す図面を、総称して設備図と言います。
設備図は各インフラごとに分かれており、大きく以下の3つに分類できます。
- 電気設備図
- 空調換気設備図
- 給排水衛生設備図
電気設備図
建物の内外の電気の流れを可視化し、電気設備の配置や配線経路、電気部品などを表した図面を電気設備図と言います。
照明器具やコンセント、スイッチや配電盤の位置、電力の容量や電圧なども記載されているのが特徴です。
また、電線管の経路や敷設方法、接地工事の仕様や回路番号など電気工事を適切に行うために欠かせない情報も記載されています。
安全かつ効率的に利用者や居住者が電気を利用するために不可欠な図面です。
空調換気設備図
エアコンや換気扇などの空調設備に関する配線や設置の計画を表した図面を、空調換気設計図と言います。
空調換気設備図に記載されるのは、空調機器や換気機器の配置だけではありません。
ダクトの経路や形状、冷媒配管やドレン配管、冷温水配管の経路、風量や吹き込み口や吐き出し口などを考慮した空気の流れなども表されています。
建築設計と調整しながら、空調機器を適切に設置し空調を管理するために必要な図面です。
給排水衛生設備図
水道工事を行うのに欠かせない、建物内外の給排水設備や衛生計画ついて表した図面を、給排水衛生設備図と言います。
給水タンクや給水配管の配置や各器具へ給水するルートや、水道メーターの位置、排水管、通気管などの排水計画の詳細がまず記載されます。
また、キッチンや浴室やトイレなどの配置や接続、スプリンクラーなどの防災設備の配置なども表されています。
建築計画との整合性を保ちながら、適切な水量と高配計画を行い、安全で衛生的に水道を使用するために欠かせない図面です。
設計図書や伏図の種類・矩計図についてはこちらの記事で解説しています。ぜひこちらもご確認ください。
建築図面における伏図とは?種類や読み方などをわかりやすく解説
【まとめ】実施設計図は工事を発注するための図面!ほかの図面との違いをよく理解しよう
実施設計図は工事を発注する施工業者向けの図面です。
施主との合意形成のために作成される基本設計図や、現場の職人のために作成される施工図とは用途が異なります。
また、ひと言に実施設計図と言っても、用途に応じて様々な種類があり、建築計画の各段階や用途によって使い分けられており、それぞれ重要な役割を担っています。
各図面が何を表しているか、また図面に用いられている記号や単位などを正しく理解することで正しく読み取ることができ、正確で安全な施工に繋がります。
図面について正しい知識を持ち、建物の構造や施工内容を正しく理解しましょう。