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建設業界の経理は他の業界より独特なことで知られています。その一例が「未成工事支出金」と呼ばれる項目です。未成工事支出金とは、完成していない工事にかかる費用で、製造業・工業簿記における「仕掛品」勘定に該当します。
今回はこの未成工事支出金に関して、仕訳方法や会計上の勘定項目についてご紹介していきます。
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未成工事支出金とは
未成工事支出金とは、完成していない工事にかかる費用のことを意味します。通常、会計期間は一年です。しかし、大規模な工事は時間がかかります。決算処理のタイミングで完成していない場合も多いです。
そのため、工事完成前の決算で経費を計上すると、その工事に関する利益は当期がマイナス、翌期がプラスになり工事単体の利益もうまく表示されない状態となります。
そこで、決算時点では、先行した経費を未成工事支出金として貸借対照表の資産で計上し、工事完成まで繰越処理を行います。
未成工事支出金を使用する理由
建設業の場合は工期が年度をまたぐことも少なくありません。そして、完成していない工事も施工自体は進んでいるため、費用や支出は発生している状況です。
しかし、一般的な会計基準では完成していない工事にかかる費用を計上することができません。さらに、取引先や投資家からは1年単位の業績公開を求められます。
こうした理由から、建設業独自の会計手法でも特徴的である「未成工事支出金」を使用しているのです。
未成工事支出金の勘定項目
未成工事支出金は建設業独自の勘定科目で、勘定科目上の分類は「仕掛品」にあたります。最終的に売り上げになる原価、すなわち材料費や施工費は勘定科目の上で棚卸資産として数えられます。
仕掛品は税務調査等でもっともチェックされやすい項目なので注意が必要です。また、計上のタイミングにバラつきがあれば決算報告にミスが生じやすくなるため、未成工事支出金は基本的に同じタイミングで計上される必要があります。
未成工事支出金の計上タイミング
未成工事支出金の取り扱いに関して最も重要な点は、計上するタイミングです。会計の原則は、かかった費用と収益のタイミングを一致させるというものです。そのため、未成工事支出金を計上するタイミングは工事が完成し、成果物を発注者に引き渡した時点となります。
未成工事支出金の算出方法
続いて未成工事支出金の算出方法についてご紹介していきます。未成工事支出金の算出方法そのものは複雑ではありません。しかし、計上のタイミングや仕訳方法は一般的な会計処理と比べて独特なものとなります。しっかりと仕組みを理解しましょう。
具体的な算出方法
未成工事支出金の算出方法に特別な計算は必要ありません。未成工事支出金は工事にかかる材料費や施工費などの合計です。未成工事支出金の具体的な算出方法は、以下の通りです。
未成工事支出金=工事にかかった各種費用の合計
経費が発生した段階で記帳し、漏れのないように気を付けましょう。未成工事支出金は工事が未完成か完成済みかによって損益計算書での表示が変わります。一例を紹介します。
工事が完成済みの場合
工事が完成している場合から考えてみましょう。この場合の記載は一般的な会計と同じ要領で行うことができます。例えば利益率20%で100万円の工事を請け負った場合、損益計算書のでの表示は以下となります。
- 売上高100万円
- 工事費用80万円
- 利益20万円
工事が未完成の場合
一方で工事が未完成の場合は、売上高100万円が収益として計上されるまでは工事にかかった経費は未成工事支出金として貸借対照表に計上されます。そのため、損益計算書の記載は売上高、工事費用、利益の三つとも0円です。
未成工事支出金の具体的な仕訳例
続いて未成工事支出金の仕訳例を具体的にご紹介していきます。同じく利益率20%で100万円の工事を請け負った例で考えてみましょう。かかった工事費用80万円のうち、現金払いの材料費40万円、外注費用40万円の内訳と仮定します。
材料費40万円の仕分け
・X工事について、材料費40万円を現金で支払った(工事未完成)
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
未成工事支出金 ※1 | 400,000 | 現金 | 400,000 |
※1 「摘要」または「補助科目」として「材料費 X工事」と記載。
・X工事が完成し、費用を計上(工事完成)
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
材料費 ※2 | 400,000 | 未成工事支出金 ※1 | 400,000 |
※2「摘要」または「補助科目」として「X工事」と記載。
外注費40万円の仕分け
・X工事について、外注費40万円の請求が届いた(工事未完成)
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
未成工事支出金 ※3 | 400,000 | 現金 | 400,000 |
※3 「摘要」または「補助科目」として「外注費 X工事」と記載。
・X工事が完成し、費用を計上(工事完成)
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
材料費 ※4 | 400,000 | 未成工事支出金 ※3 | 400,000 |
※4「摘要」または「補助科目」として「X工事」と記載。
未成工事支出金の仕訳する際の注意点
会計で未成工事支出金を用いるのは、決算時の利益のズレを防ぐためです。費用の計算を正確に行うためには、工事と発生した費用の計上タイミングが同一であることが重要です。
このために、建設業では未成工事支出金に関して二つのルールが用いられています。この二つのルールは会社によって選べます。工事進行基準と工事完成基準についてご紹介していきます。
工事が完成した時点で経費を計上する
材料費や外注費などの経費は、工事が完成した時点で計上することが大切です。完成していない工事で、経費の計上は行わないよう注意しましょう。
また、利益を多く見せようと在庫を多めに計上したり、反対に少なく計上したりすれば、実際の金額とズレが生じます。結果として、曖昧な会計処理となり、工事が完成するまで赤字か黒字か判断できない状況に陥ります。
このような事態を防ぐためにも、経費の計上は工事が完成した時点で正確に行いましょう。
工事進行基準と工事完成基準の二つのルール
工事進行基準と、工事完成基準については、2つのルールがあります。ここからは、その2つのルールについて解説していきます。
一つ目のルール「工事完成基準」
工事完成基準は工事が完成したタイミングで費用計上を行います。工事完成基準の最大のメリットは、会計処理の簡便さです。
振り替えが一回で済むため会計処理が複雑になりにくいという特徴があります。デメリットは工事終了後まで使用した費用が出てこないため、蓋を開けてみたら赤字だったなどが起こり得る可能性があるところです。
二つ目のルール「工事進行基準」
工事進行基準は工事の進行度合いに応じて売上や経費を複数回に分けて計上するやり方です。
工事進行基準は一年で完成せず工期が複数年に渡るような公共事業や大規模工事で多く用いられることがあります。工事進行基準のメリットは未成工事支出金を工事の進行段階に合わせて各期末ごとに計上する点です。
そのため、工事完成基準で起こり得る蓋を開けてみたら赤字といった現象は無くなります。デメリットは、会計処理が複雑になりることです。
建設業ではこの二つの工事基準のどちらかを選択することとなります。詳しくはこちらの記事でも解説しているのでぜひ参考にしてみてください。
工事進行基準とは?工事完成基準との違いをご紹介!
決算時の仕訳漏れ
決算時に特に注意が必要なことは仕訳漏れです。未成工事支出金には、材料費や外注費、請負工事契約時に支払う印紙代など、どれほど軽微であっても、工事にかかる費用が全て含まれます。計上時期、計上内容共にミスの無いように日頃より正確な記帳を心がけましょう。
また、財務調査の際、決算時に正確に計上されているか、チェックされる場合もあります。万が一、仕訳漏れがあれば修正申告となるため注意しましょう。
【まとめ】未成工事支出金の仕組みをしっかりと理解して会計しましょう
今回は建設業会計に特徴的な未成工事支出金の仕組みや仕訳方法についてご紹介してきました。未成工事支出金は工期が長引きやすい建設業の会計にとって不可欠な会計方法です。計上のタイミングや仕訳方法が独特であるため、処理の仕組みをしっかりと理解して決算に臨みましょう。
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