建設業における電子契約の導入方法・契約手順|メリットやポイントも解説!

建設業界は「契約書や請求書は紙ベース」という概念が根強く残る業界でした。法改正やDX化の波を受け工事請負契約書を電子化することが可能になりましたが、業界内では圧倒的に紙面の契約書を使用する業者が下請けを中心に大多数を占めています。しかし、2021年5月にデジタル改革関連法が成立したことをきっかけに業界内では急速に電子契約の流れが広まりつつあります。今回は建設業界で電子契約を導入するメリットや、契約の際の流れについて話していきます。

建設業における「電子契約」とは

電子契約とは、本来書面で締結してきた契約をオンライン上で完結させる方法を指します。
書面契約における、契約書の印刷や製本、保管という業務を、電子契約ならデータをインターネット上で作成・共有できるため、簡略化できます。2020年の新型コロナウイルスの流行を機に在宅業務が一般的になったことで、電子契約は急速に浸透していきました。現場主義の建設業においても、様々なメリットが生まれるため普及が広まっています。

建設業で電子契約が導入されるようになった背景

先述したように、建設業で契約を締結する場合には、書面による契約が義務づけられていました。これは請負業者、発注者、下請け業全ての当事者に対して義務付けられました。そのため、長い間、紙面、電話、FAXという手法で契約締結やあらゆる情報共有が行われていたのです。DX化が進む中、このようなアナログな風習が根強く残っている建設業において、どのように電子契約が導入されていったのでしょうか。経緯を3つに分けて解説しましょう。

1:法改正により電子契約が導入可能に

建設業法とは、発注者の保護と建設工事の適切な施工を目的に定められた法律です。そして施行以来しばらくは請求書は紙面で行うように義務付けられていました。しかし、2001年の改正により、元請企業と下請企業双方の合意があれば、電子上で契約できるようになったのです。しかし契約に利用するサービスは「相手方が記録を出力して書面を作成できる」「記録された契約事項に改変がおこなわれていないか確認できるもの」という技術基準が定められています。

2:グレーゾーンの解消でより導入しやすくなった

グレーゾーン解消制度とは、事業者が新規事業の計画をする際に、法規制の適用を受けるかどうか所管省庁に確認を行い書面で回答をもらえる制度です。2001年の建設業法改正では「原則は書面での契約、ただし電子契約も可能」と記載されていたため、「どこまで電子化して良いか分からない」と書面契約に留まる企業が多く見受けられました。
しかし、グレーゾーン解消制度により、請負契約はクラウドサインで電子契約化できることが明らかになりました。その旨が2020年の建設業法施行の改正に明記されたため、安心して多くの企業が電子契約を導入できるようになったのです。

建設業が電子契約を導入するメリット

グレーゾーン解消制度により請負契約の殆どが電子上で締結できることが明確になったため、電子契約の合法性が認識され急速に浸透しています。しかし、紙面上での取引に慣れており電子契約の導入に躊躇している企業も少なくありません。そのような不安を解消するために、電子契約を導入することで得られるメリットを以下で3つ紹介しましょう。

メリット1:契約業務の効率化

まず、契約書の作成や締結に伴う事務作業を大幅に削減できることが大きなメリットの1つです。紙面で契約書を作成、締結するためには書面作成後、印刷をした後、郵送であれば送り状を作成し相手方に送付しなければならないだけでなく、書類が返送されるまで最低2〜3営業日はかかります。電子契約を導入すればこれらの作業がすべてオンライン上で完結するのです。契約書作成や管理のための時間を実務に充てられるようになり、日々の業務が効率化することが期待できます。

メリット2:コンプライアンス強化

コンプライアンスの面でも、電子契約は効果を発揮します。紙面の契約書と異なり、電子契約書の内容は、アクセス権を持つ人しか閲覧できないという特徴があります。さらに、誰が閲覧したかはアクセスログで管理できます。そして、印鑑を押印する代わりに高い信頼性が確保された電子署名とタイムスタンプをセットを用いるため、第三者による不正をかなり高いレベルのセキュリティで防止できるのです。このように、書面の改ざん、情報漏洩といった社内外の人間によるトラブルを防止できるという利点があります。

メリット3:経費削減

電子契約は、経費削減においても効果を発揮します。紙面で契約書を作成、郵送する場合には、印刷紙、郵送料、保管の際のファイルなどの費用が発生します。しかし、電子契約書であればオンライン上で完結するためこれらの経費は不要になります。そして、電子契約書は契約金額が所定の金額を上回っても収入印紙を添付する必要がないというメリットがあります。例えば、500万円以上1,000万円以下の契約であれば、紙面の契約書の場合1万円の収入印紙が必要になるので、電子契約に移行すれば非常に大きなコストカットになると言えます。

工事請負契約書にかかる収入印紙の金額については、こちらの記事で解説しています。ぜひこちらもご確認ください。
工事請負契約書 収入印紙 金額工事請負契約書にかかる収入印紙の金額は?2つの節税方法も解説

建設業の電子契約に必要な条件

電子契約は業務効率化、セキュリティ強化、コストカットいずれの面でも優れた効果を発揮する画期的なシステムです。しかし、どのようなシステムでも導入すれば良いという訳ではありません。条件を満たさない電子契約書だと、法制度や規制などに抵触する可能性があります。建設業での契約に必要な条件は、「見読性」「原本性」「本人性」の3つと言われており、いずれか1つでも不足すると効果を発揮しません。それぞれについて以下で詳しく説明していきましょう。

条件1:見読性

電子契約書における見読性とは、先方が契約書上のデータを出力することで、双方で書面作成やデータの保存、確認が容易にできる状態を指します。クラウド上に保存するだけではなく、ディスプレイ上や書面上にも出力できる状態が理想です。また、画像が荒い、文字化けしているなどの理由で肉眼で確認できないクオリティだと、当然のことながら契約書として効果を発揮しません。複数人が同時にアクセスしても、内容の確認に不具合がない状態を保つためのシステムが必要です。

条件2:原本性

原本性とは、契約書が改ざんされてないことを確認できる状態を指します。電子契約書は書面上の契約書と異なり、原本や謄本、正本そして写しの区別がないのが特徴です。そのため電子契約書の原本は、「電子署名」が確認でき、「タイムスタンプ」で合意形成の期日が明確な電子データを指します。また、データへの不正アクセスを防ぐため、公開鍵暗号方式を使用してデータを暗号化することもあります。暗号化するためには「公開鍵」、閲覧する際には「秘密鍵」というデータを用いてセキュリティを強化します。

条件3:本人性

電子契約においては、安全のために本人によって署名されていること、いわゆる「本人性」を重視します。本人確認の方法は、高額な契約ではない場合、先方のメールアドレスにリンクを添付し、クリックされたことで整合性を図る方法をとるケースが多く見受けられます。しかし、より重要な契約の際は電子証明書を使用します。本人確認のため先述した公開鍵に電子証明書を紐づけることにより、契約書の非改ざん性を確認できるようになるのです。

建設業で電子契約を導入する際の注意点

電子契約のシステムは見読性、原本性、本人性を全て満たしているものである必要があります。見極めるためには自社のPCで画面が書面とデータ双方で明瞭に映るシステムであるかを確認し、さらに公開鍵公式や電子証明書などのセキュリティ対策が十分にされているかをチェックしてください。また、電子署名も第三者機関で確認する「当事者型」とクラウド上で署名する「立会人型」の2種類が存在するので、自社に合ったものを選択することでスムーズに運用できるようになります。

建設業で電子契約を導入するためのステップ

先述したように電子契約書システムはリモートワークの普及により、ますます広まっています。法的な要件や企業のコンプライアンス要件を満たしたものを選定する必要がありますが、自社に合うものを選択するのは難しいと感じる方も多いでしょう。法的な条件を満たしていないと、訴訟が起こった際の証拠機能として効果を発揮しない可能性があります。さらに一度導入した電子契約を切り替えるのは契約上難しいケースが目立ちます。このようなリスクを回避し、自社にマッチするシステムを導入するために必要なステップを、以下で3つに分けてご紹介します。

ステップ1:現状把握と導入範囲の明確化

まずは、現在の社内の契約書に関する管理体制を確認し、電子契約を導入出来る範囲がどこなのかを明確にしましょう。事業用定期借地契約など法令によっては電子契約が利用できないものが一部に存在するので、自社業務に適合しないか確認しましょう。また、電子契約は自社だけでなく先方との合意がなければ始められません。そのため、まずは請負契約や発注書のみなど部分的に導入して、様子を見ることをお勧めします。売買契約や賃貸借契約などの規模の大きい契約は、ある程度慣れてから導入するなど、慎重に勧めていきましょう。

ステップ2:必要サービスの選定

自社の現状と導入範囲を決定したら、導入範囲を決定しましょう。電子契約書サービスは数多くリリースされており、提供形態もクラウドかSaaS(サービスとしてのソフトウェアで主にサブスクリプション契約)の2種類あるので選定には時間がかかるかもしれません。それぞれのシステムの長所や短所を把握し、自社の業務に合ったサービスの選定を進めます。その際には電子契約を運用する担当者に運用する上で問題ないかどうかをヒアリングすることも大切です。

ステップ3:ルール整備と導入したことの周知

導入するサービスを決定したら、社内で電子契約を運用する上でのルールを定めましょう。具体的には電子契約を導入する契約書の範囲の選定と、承認の際のフロー、保存の際のルールなど、できるだけ明確に定めておくとスムーズな導入になるだけでなく後のトラブルの防止にも繋がります。さらに、社内外に導入を通知するだけでなく、社内向けに説明会を実施しルールを周知する他、社外からの問い合わせに備えたマニュアルの準備なども進める必要があります。コンプライアンス上の問題がないよう体制を整えていきましょう。

建設業で契約書を作成する手順

サービスを選定し、運用する上で必要な情報を溶融し、基盤を固めたら実際に電子契約サービスを利用しましょう。ここでは、電子契約を利用して工事請負契約を結ぶ際の流れを解説していきます。基本的な契約締結の際の流れは書面契約と変わりません。しかし書面契約には電子契約ならではのステップや、滞りなく契約締結するために心がけてほしいポイントは幾つかあります。以下で5つに分けて、契約書を作成する際の手順について解説していきましょう。

手順1:ネット上に契約書をアップロード

まず、登録している電子契約サービス上に、受注した側の企業が契約書をアップロードします。非改ざん性をアップするために、電子契約書は契約書は第三者が編集できないPDFの形態を用いるのが一般的です。その際に、契約書のPDFファイルには電子署名とタイムスタンプを必ず付与しておきましょう。電子契約書の原本性が高まるだけでなく、本人性が高まるために後から改ざんされるリスクがぐっと少なくなり、契約書としての効果を発揮します。

手順2:施主にメール通知

工事請負契約書のアップロードが完了したら、契約書を施主にメールで送信します。書面の契約書を郵送すると数日かかる工程を一瞬で相手方へ到着させられるので、契約手続きを円滑に進める上で大きな効果があります。また、郵送で送付した際は誤送付や書類紛失などのリスクがないか確認するため先方に到着しているか確認する必要があります。しかし多くの電子契約サービスには、契約書を添付したメールの既読確認機能が搭載されているので確認業務の必要はありません。

手順3:施主が内容を確認

次に、メールで届いた工事請負契約書の内容を施主が確認します。多くの電子契約サービスでは、施主側がアプリやソフトウェアなどを事前にインストールしなくても、電子契約書は閲覧可能です。セキュリティ面で不安を感じるかもしれませんが、電子契約書は殆どの場合暗号化されているため、ブラウザ上であって安全性を確保したまま内容を確認できます。書面で確認、もしくは保管したい場合はプリントアウトすることも殆どのシステムで可能です。

手順4:契約内容に合意

施主が契約書の内容に合意をしたら、契約締結という流れになります。契約書作成時は電子証明書や暗号化などの手順が必要になりますが、施主が契約に合意する場合はシステム上で簡単な作業をするだけで完了します。署名契約では捺印、押印後返送するという手間が発生するために、施主側の都合で契約締結が大幅に遅れる可能性も懸念されますが、電子契約ではその必要がありません。早く合意を得たい企業と郵便局に行く手間が省ける施主、双方にとってメリットが大きい部分と言えるでしょう。

手順5:電子署名入りのPDFファイルの受領

施主側が内容に合意したら、電子署名が施された工事請負契約書のPDFファイルを企業は受領します。書面契約の場合は契約書を2部作成し、双方で1部ずつ保管しますが電子契約書の場合はその必要はありません。契約書のデータは、クラウドサーバー上に保管されます。ハッキングなどのリスクを心配するかもしれませんが、強固なセキュリティ対策がおこなわれているため、自社保管と比較すると情報が漏えいするリスクは格段に少ないと言えるでしょう。

【まとめ】建設業に電子契約を導入して業務効率化しましょう!ポイントや手順も要チェック

建設業界では様々な場面でDX化が進んでいますが、契約書上の「脱ハンコ化」もその大きな流れの1つです。グレーゾーン解消制度やデジタル改革関連法により、工事請負契約書や見積書など建設業にかかわる多くの重要書類が電子化できるようになりました。電子契約書はコスト面や業務効率化の面で優れた効果を発揮しますが、重要なのは自社の課題や法的な問題をクリアしたシステムを選定し、スムーズに運用できる基盤を作ることです。紹介したポイントを踏まえて電子契約書の導入を検討してみてはいかかでしょうか。