建設業の会計業務を効率化するERPシステムとは?導入メリットやおすすめシステムについても紹介

建設業界では、急速にDX(デジタル・トランスフォーメーション)化が進んでいます。中でも、建設現場へのドローン技術の導入や、BIM/CIM(ビム/シム)という立体図面作成のデジタル技術などの建設現場向けの技術は有名です。しかし、管理業務向けの「ERP」については、まだあまり認知されていないのではないでしょうか。今回は建設業の管理業務の効率化に貢献するERPの特徴や、導入するメリット、お勧めのシステムについても紹介しましょう。

建設業におけるERPとは

ERPとはEnterprise Resource Planningの略称で、日本語に直訳すると企業資源計画です。企業経営の基本となる資源要素(ヒト・モノ・カネ・情報)を適切に分配、管理し、有効に活用する計画や考え方を意味します。「基幹システム」と良く混同されますが本質的には異なります。基幹システムは会計や生産管理など、それぞれの業務を独立して管理していますが、ERPはそれぞれの業務を一元化して統合的に管理しています。現在では企業の情報戦略において不可欠な存在となっています。

建設業向けERPの特徴

ERPと一言で言っても、様々な種類のものが存在します。一般的には、それぞれのデータを統合的に管理する「統合型」、必要な機能を自由に組み合わせる「コンポーネント型」、一部の業務に特化した「業務ソフト型」、そして特定の業界のニーズに応えた「業界型」の4種類に分類可能です。建設業界では、業界特有のシステムに併せた「業界型ERP」を使用しています。一般的なERPにはない、建設業界向けERPの特徴とは、どのようなものでしょうか。以下で3つに分けて解説していきましょう。

特徴1:建設業の会計業務

建設業界は「着工から引き渡しまで長期間かかる」という特徴があるため、他業界のようにカレンダー通りの年単位の会計ができません。また、大規模なプロジェクトだと1つの工事を複数の企業で受注する、JV(ジョイントベンチャー)という方式を採用することもあります。そのため、会計処理が複雑化し、情報が分散するというトラブルが良く見受けられました。そのような問題をカバーしつつ、業界特有の収益や費用の計上方法に対応した機能を備えているのが、建設業界向けのERPの特徴の1つです。

JV(ジョイントベンチャー)の会計処理については、こちらの記事で解説しています。ぜひこちらもご確認ください。
JV(ジョイント・ベンチャー)の会計処理とは?2つの会計方式と仕訳例を紹介

特徴2:会計データを工事単位で可視化

建設業では1つの現場において、複数の工事のプロジェクトが存在します。そのため、それぞれの管理が行き届かず原価すら不明瞭のまま工事が進み、終了して初めて採算が取れず赤字だったことが判明するというトラブルが見受けられていました。このようなリスクを防ぐため、建設業向けERPではプロジェクトごとに、労務実績や資材の調達実績、経費実績など様々な面からタイムリーに実費と予算のバランスを確認できるように設計されています。現状把握だけでなく工事完成ごろの採算を予測する機能も備わっているのも魅力の1つです。

特徴3:引き合いと業績予測

顧客より業務の相談を受けることを、建設業界内では「引き合い」と言います。既存のシステムでは案件は受注確定後からしか管理できませんでした。しかし、建設業向けFRPではプロジェクト前の引き合いの段階から案件を登録が可能になり、さらに受注確度や営業活動の進捗状況まで管理できるのが魅力です。さらに受注確定後に、今後の業績や利益の予測ができる機能も搭載しています。建設業は業績の予測が困難と言われていますが、建設業向けERPを導入すれば、採算の高い案件を事前に予測、選別できるため効率的な営業活動が行えるようになります。

建設業でERPを活用するメリット

建設業界向けのERPは、業界特有の工期の長さや、個々のプロジェクトの管理という問題に適応する形で設計されています。さらに従来は受注前と受注後で管理システムが異なっていましたが、引き合い前から業績予測と併せて一元的に管理できるという便利さも兼ね備えています。しかし、聞きなれないERPを導入することに対して、ハードルが高いと感じる方がまだまだ多いのが現状です。そのような方に向けてERPを活用することで得られるメリットを、以下で4つに分けて紹介しましょう。

メリット1:会計業務効率アップ

まず、大幅に作業工数が削減でき、業務効率化に繋がることがメリットと言えます。Excelや専用の業務システムを使用している場合、それぞれからデータを抽出し加工するという手間が発生することもあります。しかしERPは、先述したように複数の業務システムを連携し一元的に管理できるため、1つシステム内で全てが完結できるようになるのです。データ入力やデータ収集の手間を削減できるのは、導入する大きな利点と言えるでしょう。

メリット2:採算の合わない工事の早期発見

建設業向けERPは、経営判断にも役立ちます。建設業界では、勘定項目、計上のタイミングが共に特殊なために、正確な原価把握と管理が難しいことが問題視されていました。しかし、ERPを導入すれば引き合い段階から採算データが可視化できるため、収益予測が容易になります。また、受注確定後も進捗ごとに採算が取れるかを搭載データを元に予想できるため、赤字になりそうな兆候が見えたら早期に対策を講じ回避できるようになるのも大きな魅力と言えるでしょう。

メリット3:決算の早期化

ERPを導入することで、決算処理や月締め処理スピードが格段に向上することも導入する大きなメリットと言えるでしょう。建設業向けERPは、各プロジェクトの原価実績に応じて自動で会計データを生成するシステムを搭載しています。そのため、従来行ってきた毎月の決算時の支払額の集計などの手間が不要になります。さらに年次決算の際に、複数のシステムから必要なデータを抽出する必要もなくなるため、結果として財務諸表の早期作成にも繋がるのです。

メリット4:内部統制強化

企業の成長の上で欠かせない内部統制にも、ERPは貢献します。内部統制とは組織が適切にコントロールされた状態を保つためのルールや制度のことを指します。ERPを導入することで情報セキュリティが強化されるため、内部や外部からの情報漏洩を防げます。さらに、各部門の情報を一元に管理できるため、データの改ざんや財務の不正計上などの従業員の不正がしづらくなります。建設業向けERPを導入すれば、透明性の高い社内環境も育成できるのです。

建設業で導入するERPを選ぶポイント

建設業向けERPの導入は、業務の効率化だけではなく社内コンプライアンスの強化という面でも効果を発揮します。しかし、建設業向けのERPは数多く存在するため、多くの製品の中から最適なものを選ぶことは容易ではありません。「導入コストに値する効果が得られるのか」、「導入した後使いこなせるのか」など、悩みを抱える企業が殆どでしょう。そこで、建設業でERPを選ぶ際に、考慮すべきポイントを以下で4つにまとめました。

ポイント1:建設業の業務に対応しているか

建設業向けに設計されている、業界特化型のERPを導入しましょう。先述したように、建設業界は独自の会計処理を行っているため、一般的な商業簿記や工業簿記を搭載したものでは対応しきれません。導入後、大幅なカスタマイズが必要になり結果としてコストがかかる可能性があります。「安価である」「最も売れている」などの基準で判断せず、建設業界特有の会計基準や勘定科目に標準機能が適応しているERPを選ぶことが重要です。

ポイント2:業態に合っているか

自社の業務形態にマッチするシステムを選択する必要があります。建設業に特化したERPは多くの機能を備えていますが、リリースされている商品それぞれに特徴があり、対応できる業務は限られています。例えば、複数の業態がある場合1つのシステムで網羅できない場合は、新たなシステムを利用しなければならなくなり、結果としてデータを一元的に管理するERPの長所は活かされなくなります。自社の業態をカバーできるシステムを見極める審美眼を養いましょう。

ポイント3:変更対応が柔軟か

データの組織変更への対応が柔軟であることも、システムを選ぶ際に重視してほしいポイントです。ERPはパラメータを変更する「カスタマイズ」という設定変更作業を行うケースがあります。しかし、費用が数百〜数千万円と高額になる場合が多いため、カスタマイズは最低限に抑えた標準仕様でコストと予算共に抑えて導入する形が一般的です。しかし、自社の予期せぬ管理体制の変更や法改正などで、カスタマイズの必要性が出てくることは十分に考えられます。その際にコストや期間をなるべく少なく対応できるERPシステムを選択することをお勧めします。

ポイント4:クラウドかオンプレミスか

提供形態も見極めましょう。ERPシステムの形態は自社でサーバーを運用・管理する従来のオンプレミス型と、データをクラウド上で一元管理するクラウド型の2種類に分けられます。オンプレミス型は、導入期間と初期コストはかかるものの、自社に合わせて自由にカスタマイズできることが魅力です。しかし、近年はクラウド型のERPが主流となりつつあります。クラウド型ERPはカスタマイズ性が低いというデメリットはありますが、ソフトウェアのアップデートなど運用管理が不要となるためランニングコストが低いというメリットがあります。そのため、アプリケーションをクラウドサービスとして利用する、いわゆるSaaS型を中心に利用する企業が増えているのです。

建設業むけERPシステムのおすすめ6選

ERPは画期的なシステムですが、業務形態と合わないとExcelなど別システムと併用しなければならなくなるか、もしくはカスタマイズで多額の費用を要することが考えられます。そのようなリスクを回避するためにも、自社の業務や業態にマッチした、コストパフォーマンスに優れたものを選別しなければなりません。そこで、建設業向けに開発されたERPの中でも特におすすめのものを6つピックアップしました。導入を検討する際に是非参考にしてください。

1:ガリバーシリーズ

ガリバーシリーズは主に小〜中規模の建設企業に向けて開発されたERPです。営業活動から日々の工事の支払いや購入の管理や財務管理など幅広い業務を一元的に管理できます。従業員数やライセンス数に応じて従業員数が20名までの小規模事業向けの「ガリバー匠」、100名までの中小企業向け「ガリバーNEXT」、300名までの中堅建設・工事業向けの「ガリバー・プロステージ」の3つから選択可能です。充実した保障と建設業の知識がある専門スタッフによるサポート体制が整っているのも、安心して導入できる理由の1つです。

2:GRANDIT

GRANDITは「便利×手軽×中小企業」をテーマに掲げたクラウド型の建設業向けERPシステムです。あらゆる業務や機能を想定した充実した機能で、フレキシブル性に優れておりカスタマイズの必要性が少ないことが特徴です。各社の技術、ノウハウと経験を進化系ERPに集結しているため、企業グループや取引先までもを1つのシステム内で情報化します。ANAシステムズ株式会社や株式会社タイトーという大手企業でも導入実績のある優れたERPシステムの1つです。

3:OBIC7

OBIC7は、化学から食品、金融まで多くの業態を網羅している、自社のソリューションに合わせて形態を選べる複合型のERPシステムです。「建設工事業向け統合ソリューション」を選択すれば、建設業特有の原価管理や運用に適応する形で、引き合いから着工、請求・支払いまでの一連の会計処理や案件の進捗について統合的に管理できます。積算データに基づく経営指標分析を用いて業績の着地予測や評価をタイムリーに実行できるのが魅力で、経営基盤を安定化させたいという方にお勧めのシステムです。

4:e2-movE

e2-movEは、建設業に特化したFRPパッケージです。実行予算〜収支業務に特化した「e2movE 工事」受注~売上業務の「e2movE販売」、未払い支払査定「e2movE 支払」予算~決算業務の「e2movE会計」のシリーズで構成されており、自社業務に合わせて自由にカスタムできるため、ローコスト・短納期で導入可能なERPシステムです。スーパーゼネコンの1つの清水建設株式会社をはじめとした400社以上の導入実績と継続率98%以上というデータも導入を後押ししてくれる要素の1つでしょう。

5:GLOVIAsmart建設

GLOVIA smart建設は、40年以上にわたり運用され来た富士通のGLOVIAシリーズの中の建設業に特化したERPシステムです。Webブラウザを活用し、リアルタイムでの最新の情報の共有が可能になります。工事種目別に、顧客に合わせて予算監視システムを設定できるカスタム性や、グループ会社の情報を一元化で管理できる「マルチカンパニー機能」が特徴です。また、セキュリティ面にも強く、全ての社員の操作履歴の取得もできる機能も搭載しているので、内部統制を課題にしている企業にもお勧めのシステムです。

6:EXPLANNER/C

NECで開発されたEXPLANNER/Cは、40年の建設業の基幹システムの基盤をもとに工事原価の管理と、会計業務を一括で管理できるERPのパッケージです。工事原価をリアルタイムで可視化し、最終的な収益予測に反映させることで経営判断をスピード化し監査や内部統制にも対応しています。さらにオプションで、営業管理、経営管理、販売管理などのシステムを追加できるため、自社に必要な機能のみ選択できる自由度の高さも人気の理由となっています。

【まとめ】建設業の会計業務をERPの導入で効率化しましょう!選ぶポイントやおすすめシステムも要チェック

建設業向けERPシステムは、複雑な会計処理に対応するだけでなく、工事の採算を早期に判断するため経営基盤の安定や、内部統制により社内のクリーン化にも貢献します。現在、建設業界はインボイス制度の導入や働き方改革で大きな変化の渦中にあるため、ERPシステムを導入するには良いタイミングと言えるでしょう。自社の課題の解決に最適な建設業向けERPシステムを選択し、業務効率化の大きな一歩を踏み出してはいかかでしょうか。