建設業でのパワハラを未然に防ぐために!パワハラの事例や解決・撲滅のためのポイント

「パワハラにはどんな種類があるの?」
「パワハラの対処法を知りたい」
「パワハラを防止するには?」
と気になる人も多いと思います。建設業のパワハラは職場や取引先などの間で発生します。被害者にも加害者にもなりうる問題であり、適切に対処しなければなりません。
「パワハラ」をニュースで聞いたことがある人は多いと思いますが、パワハラの防ぎ方や対処方法は案外知られていないのではないでしょうか。
今回は建設業でのパワハラを未然に防ぐために、パワハラの事例や解決・撲滅のためのポイントをまとめました。
どの業界でも知っておくべき内容ですので、ぜひ最後までお読みいただき参考にしてみてください。

年々増え続けるパワハラ事例

パワハラの数は年々増加しています。厚生労働省の資料によると、2021年度の総合労働相談のうち「いじめ・いやがらせ」の件数は86,034件でした。10年前(2011年度)の45,939件と比べても2倍近く増加しています。パワハラ件数の多さから身近な問題であると分かりますね。もし社内でパワハラが発生した場合、適切に対処できるでしょうか。パワハラを解決するためには、まず「パワハラとは何か」を知り、理解することが重要です。
(参考:「令和3年度個別労働紛争解決制度の施行状況 総合労働相談 相談内容別の件数p.4」厚生労働省)
(2011年度(h23)の件数):「相談件数の推移p.3」厚生労働省)

建設業における「パワハラ」の基礎知識

「パワハラ」と聞いて、どんなイメージがあるでしょうか。仕事上のトラブルに人間関係はつきものです。建設業界でもパワハラの事例は多数報告されています。まずはパワハラについて学び、どのような対策ができるか考えていきましょう。

そもそも「パワハラ」とは?

厚生労働省によるとパワーハラスメントの定義は次の条件を満たすものと定められています。それは「優越的な関係を背景とした言動」「業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」「労働者の就業環境が害されるもの」の三つです。この三つの条件を満たしているか、実際の状況から判断しなければなりません。また「優越的な関係」というのは必ずしも上司から部下へのパワハラに限らず、部下や同僚もしくは複数によるパワハラも該当します。
(参考:「ハラスメントの定義」あかるい職場応援団)

取引先からのパワハラ事例もあり

パワハラが起こるのは会社内だけではありません。取引先の相手もパワハラの対象になります。
パワハラ防止法(労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律)には「事業主は、優越的言動問題に対するその雇用する労働者の関心と理解を深めるとともに、当該労働者が他の労働者に対する言動に必要な注意を払うよう、研修の実施その他の必要な配慮をするほか、国の講ずる前項の措置に協力するように努めなければならない。」と記載されています。これにより事業主と直接雇用関係がある人だけでなく、取引先の労働者(他の労働者)であっても言動に配慮する必要があることが分かります。
たとえば元請け業者から下請け業者に対して、人格を否定する・大声で罵倒するようなことがあればパワハラに該当します。契約に上下関係が存在したとしても、このような行為は法律で禁止されています。
(参考:「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」の第九章・第三十条の三」e-Gov)

建設業でのパワハラのイメージが強いのはなぜ?

残念ながら建設業のパワハラは少なくありません。どの業界でもパワハラはありますが、「建設業=パワハラが多い」とイメージする人もいます。なぜ建設業にはパワハラのイメージがあるのでしょうか。

常に事故のリスクに晒されるから

理由の一つに「建設業は事故のリスクがある」ことが挙げられます。建設業は高所での作業や重い荷物の運搬、危険物の取り扱いなどで常に事故のリスクに晒されます。慎重に作業しなければいけない分、とっさに怒鳴ってしまう、過剰に注意してしまう人がいるようです。しかし、いくら怪我を防ぐためとはいえ行き過ぎた指導は不適切です。

建設業特有の風通しの悪さ

また「建設業の風通しの悪さ」も影響しているでしょう。建設現場では工事が完成するまで作業を共にすることになります。それぞれ役割がありますが、職人同士のコミュニケーションは必須です。また限られた環境で長期間仕事をすることもあるため風通しは悪くなりがちです。外部の目がないと、職人同士でトラブルがあっても気づかれにくい傾向があります。

全体に占める女性の割合の低さ

「女性割合の低さ」も原因の一つではないでしょうか。近年は女性作業員の数も少しずつ増えていますが、男性に比べるとまだまだ少ないです。男性が多い職場では上下関係が厳しくなりがちで、コミュニケーションが荒くなることがあります。乱暴な口調や大きすぎる声で指導するのは、男性同士でも負担になるでしょう。

建設業のパワハラが当たり前になっているのか?対処法や辞めるメリットについては、こちらの記事でも解説しています。ぜひこちらもご確認ください。
建設業でパワハラは当たり前?対処法や辞めるメリットも紹介!

6つのパワーハラスメントの類型

前述したように「パワハラ」の定義は三つの条件を満たすことでした。実際にパワハラにはどんな種類があるのでしょうか。ここでは「6つのパワーハラスメントの類型」を紹介します。具体的な事例を知り、今後の対処や防止に役立ててください。

①「身体的な攻撃」

まず「身体的な攻撃」のパワハラです。殴る・蹴るといった暴力行為以外にも当てはまるケースがあります。たとえば相手に物を投げつけた場合もパワハラにあたる可能性があるでしょう。実際に怪我を負ったかどうかではなく、相手への暴力行為そのものが問題です。

②「精神的な攻撃」

「精神的な攻撃」では相手の人格を否定する言動があたります。長時間にわたって叱責する、他の従業員の前で怒鳴る、必要以上にミスを追求する場合もパワハラになる可能性が高いでしょう。

③「人間関係からの切り離し」

「人間関係からの切り離し」では一人の人間を意図的に孤立させる行為です。話しかけられても無視する、わざと話しかけない、一人だけ別室に移動させるといった行為が該当します。

④「過大な要求」

「過大な要求」もパワハラにあたります。たとえば本人の能力では絶対に達成できないような目標や業務を依頼するのは過大な要求になります。仕事を多く割り振る、高すぎるクオリティを求める行為はNGです。このような業務を遂行できなかった際に厳しく叱責する、ペナルティで業務外の仕事を押しつけることもパワハラになります。

⑤「過小な要求」

逆に「過小な要求」をするパワハラもあります。本人の能力以下の仕事を嫌がらせ目的で依頼するケースです。早く退職させるために簡単な業務のみ割り振ったり、仕事を与えなかったりします。

⑥「個の侵害」

「個の侵害」もパワハラの一つです。無断で個人の私物を漁る、個人情報を故意に会社内で広めるといった行為があります。プライバシーを侵害する行為も立派なパワハラです。

建設業におけるパワハラの事例

では建設業で発生するパワハラにはどんな事例があるでしょうか。具体的なケースを例に見ていきましょう。今回は「上司から部下」「同僚」「部下から上司」「社員から下請け会社」の事例を紹介します。

上司から部下へのパワハラ

「上司から部下」へのパワハラは多いです。前述したように建設業は事故のリスクが高いことも関係しているでしょう。もし建設業の仕事に不備があれば事故に繋がります。安全性を注視するあまり、部下を厳しい口調で怒鳴る・罵倒する事例が見られます。注意を促す際に、つい大声を出してしまうことはあるかもしれません。しかし常に声を荒らげたり、人格を否定したりするのは指導方法としては不適切です。厳しく叱責することだけが正しい指導方法だと勘違いしている人もいるでしょう。また言葉で説明せずに「全て見て覚えろ」というやり方は指導を放棄しているため、パワハラになることもあります。

同僚によるパワハラ

上司から部下へのパワハラだけでなく、同僚によるパワハラもあります。よくあるのはプライベートを詮索する、不利益な噂を流す、集団で無視するといった事例です。また相手にわざとぶつかる、物を投げつけるような身体的なパワハラも挙げられます。立場が対等に見える同僚であっても、業務上の優位性を利用してパワハラをする人もいます。

部下から上司へのパワハラ

部下から上司へのパワハラ事例もあります。たとえば上司を無視する、指示を聞かない、指導方法を常に否定するといった場合です。これは逆パワハラとも呼ばれ、部下の立場を利用して上司を追い込むことがあります。また集団で行う場合もあるため、必ずしも上司が優位な立場にあるとは限りません。このような部下を指導しようとして、逆に「パワハラされた」と主張してくる事例もあります。

社員から下請け会社へのパワハラ

社員から下請け会社へのパワハラもあります。基本的に元請け会社よりも下請け会社の方が弱い立場になりがちです。その優位性を利用して、不当な金額や条件で仕事を依頼される、高すぎる品質を求められる場合があります。契約において上下関係が存在し、交渉も不可能な場合は依頼を断るのは難しいでしょう。

パワハラが発生した際の解決フロー

パワハラはどのように解決したらよいでしょうか。事前に解決方法を決めていれば、パワハラが発生した際も対処しやすいでしょう。次のような解決フローを会社内で徹底すると早期的な解決に繋がります。

事前に相談窓口の設置&周知をしておく

パワハラが発生した時に備えて、事前に相談窓口を社内に設置しておくことが重要です。また社員が困った際にすぐ相談できるよう、相談窓口を周知する必要があります。相談窓口は担当者の名前や連絡先(電話・メールアドレス)が分かるように伝えましょう。窓口は人事部が担当することもあれば、代表者が担当することもあると思います。外部に相談窓口を設置している場合も同様に連絡先を周知しなければなりません。日頃から相談しやすい環境をつくっていくことが大切です。

相談者の同意をもとに事実関係を確認する

パワハラの対処時に大事なのは事実関係の確認です。まず事実確認は相談者の同意をもとに行います。相談のみ希望する人もいるので、同意なしに事実確認を行うのは避けてください。もし同意が取れた場合、パワハラを行ったとされる人から事情を確認します。あくまで事実を確認する目的で話を聞き、どちらか一方の話に偏らないように気をつけましょう。相談内容と聞き取った内容が異なる場合、第三者から話を聞かなければなりません。また守秘義務のためヒアリングの段階で話が広まらないよう注意してください。

パワハラの認定をするかどうかを検討する

事実確認ができたら、パワハラの認定をするかどうか検討します。検討する際の基準は次の通りです。

①パワハラの定義を満たしている
②「6つのパワーハラスメントの類型」のいずれかに当てはまる
③指導方法が不適切である
④悪質で慢性的に繰り返される

これらの項目に該当しており、パワハラを行った人が事実を認めている場合、パワハラと判断できるでしょう。しかし事実確認が曖昧でヒアリングした内容が人によって異なる場合、パワハラの認定を検討するにはまだ早いでしょう。正確な事実確認をした後にパワハラかどうか判断しなければなりません。

最終的な対応を決定する

パワハラが認定されたら、最終的な対応を決定します。具体的にはパワハラ行為者の減給や降格、出勤停止、懲戒解雇などの処分があるでしょう。パワハラ行為の重さや就業規則に基づき、相応の処分を決定します。もし和解を提案する際は、相談者の意思を尊重してください。重い処分が検討される場合、会社内だけで決定するよりも弁護士などの専門家に相談すると良いでしょう。

双方へのアフターケアを行う

対応が決まった後は双方へのアフターケアを行います。事実確認からパワハラ認定、処分方法を決定するには双方の理解が必要です。パワハラが起こった原因を考えて、同じことが二度と起こらないよう改善しなければなりません。指導方法に問題があった場合、何がダメだったか理解していないと一向に改善されないでしょう。コミュニケーション方法を見直し、今後どのように仕事を進めていくのか考える必要があります。

建設業でのパワハラを未然に防ぐためには?

パワハラが発生してから対処するよりも、できれば未然に防ぎたいですよね。今回は建設業のパワハラを防ぐ方法として「コンプライアンス遵守意識の徹底」と「罰則の強化」を紹介します。

コンプライアンス遵守意識の徹底

まずは意識改革から行いましょう。人によってパワハラの捉え方は様々です。パワハラという言葉は知っていても、どこからパワハラにあたるのか分からない人も少なくありません。まずは「パワハラとは何か」「どんな種類のパワハラが身近にあるか」を知ることから始めましょう。社内研修で具体的な例を用いて説明すると、パワハラの問題を身近に感じ、日々のコミュニケーションを意識できると思います。コンプライアンス遵守意識を徹底することが、パワハラ予防に繋がるでしょう。

厳しい罰則による抑止力の強化

コンプライアンス遵守の意識だけでなく厳しい罰則も必要です。パワハラの処分に応じて罰則を設けると、処分の重さが伝わるため抑止力になるでしょう。たとえば就業規則にパワハラの処分方法を記載し、罰則内容を社内で周知するなど会社として絶対に許さない姿勢を示すことが大切です。厳しい罰則がパワハラの抑止力になるでしょう。

訴訟の際の損害賠償請求に対するリスクヘッジ

パワハラが発生したら適切に対処しなければなりません。日々パワハラの予防に努めていても、完全には防げないこともあるでしょう。もしパワハラが訴訟に発展した場合、損害賠償を請求される可能性があります。パワハラを対策する方法の一つに保険加入を検討してもいいかもしれません。予期せぬ事態に備えておくと、もしもの際にも対応できます。

【まとめ】建設業でもパワハラは十分起こりうる!未然に防ぐためにもコンプライアンス意識を徹底的に浸透させよう

いかがだったでしょうか。今回は建設業のパワハラ問題について詳しく解説しました。パワハラの相談件数は年々増加しており、建設業でも問題になっています。パワハラを未然に防ぐためには、パワハラの定義から知る必要があります。たとえばパワハラは「身体的な攻撃」以外にも「精神的な攻撃」や「個の侵害」なども含まれます。必ずしも「上司から部下」に行われる訳ではなく、「部下から上司」、または「元請けから下請け」に対しても行われます。パワハラを正しく理解していないと、自覚がないままパワハラ行為をしてしまったり、パワハラが発生しても被害が認識されなかったりします。まずは会社内でコンプライアンス遵守の研修を行い、パワハラに対する問題意識を共有することが大切です。厳しい罰則を設けるとよりパワハラの深刻さを実感できるでしょう。パワハラが発生した後の対処法だけでなく、普段からパワハラを未然に防ぐ方法を考えていくべきです。