建設業の原価計算にはエクセルが一番!エクセルで原価管理を行う際の注意点も合わせて解説

建設工事が常に1か所であれば収益計算(売上-原価)は楽なのですが、複数の工事が並行して動いている状態が普通です。そして、各工事の原価計算を行わないと、「どこの工事で儲かって、どこの工事が損を出したのか」分かりません。いわゆる「どんぶり勘定」になってしまいます。
このような事態を避けるため、建設業者は各工事ごとの「原価計算」を行い、損が出る工事を避けるようにしていかなくてはなりません。今回はその原価計算のために、エクセルを有効に使う方法をご紹介していきます。

建設業における原価計算の概要

建設業の原価について、みていきます。原価は以下の4つの費目に分解できます。
・材料費:建設材料(建材など)
・労務費:建設に従事した自社職人の賃金
・外注費:他社や個人事業主から助っ人してもらったときの費用
・経費:上記以外のもの(水道光熱費等)
次に、原価計算を行う目的について説明します。

建設コストを抑えるために必要なプロセス

工事完成までには、先ほどの4費目の支出(原価)があります。これら原価が適正か(各費目の割合が、他の工事と比べて大きな差異が出ていないか)を、原価計算を行うことでチェックします。
異常に大きな値のある費目は金額を削減する努力を行い、結果としてコストを低く抑えていきます。見積書を提出したときには原価も想定しているはずですから、その時点とどれくらい違うのか、違った原因な何なのか、を追及して自社の原価計算の精度を高めていきます。

契約金額とのバランスを管理するためにも必要

仕事は利益を出すために請け負いますが、原価が工事契約金額を超えるようだと、赤字工事になるわけです。そうならないように4費目(原価)をキッチリと管理していく必要があるのです。
もちろん突発的なトラブルの発生があったかもしれません。あるいは、天候不順による作業の遅れが発生しているのかもしれません。しかしこのような場合でも、原価にどれくらい影響するのか、ひいては利益はどれくらい減るのか、などを日々管理する必要があります。さもないと、赤字工事が増えてしまいます。

企業を効率良く運営するために行われる

原価計算がキッチリ行われると、工事のコストが下がり、工事から生まれる利益が増加し、結果として会社としての収益が増加します。
収益が増加すれば、従業員への賃金での還元だけでなく、福利厚生制度の充実なども行うことができ、従業員満足度が高まります。これがひいては、企業の従業員定着率の向上へとつながっていきます。建設業界は慢性的な人手不足ですが、定着率の向上により離職者が減少し、さらには「魅力的な福利厚生制度」に誘惑され、他社からの転職者も増加するかもしれません。

原価計算をエクセルで効率良く行う方法

ここまで原価計算の概要について説明してきましたが、いかにも難しそうですね。物販業であれば売上から仕入・経費を差し引くだけなので割と簡単なのですが、建設業のように「物を作る」業種の場合は原価の算定が不可欠です。
ところで、多くの人が使っている表計算ソフト「エクセル」ですが、これを使って効率よく原価計算ができるのです。さっそく見ていきましょう。

有名な無料テンプレートを使う

最近は、さまざまなテンプレート、ひな形、契約書類などが、無料でネットに公開され、利用することができます。建設業における原価計算のテンプレートも数多くネット上に存在しています。これらを使うと、エクセル操作が苦手な人でも、それなりな結果が出るようになっています。また「改変可能なテンプレート」もあり、自分が使いやすいようにカスタマイズするのもいいかと思います。
試しに「建設業 原価計算 無料テンプレート」で検索してみると、まず最初に「工事台帳」が現れます。工事現場単位で以下のものを記載して管理します。
・基本情報
・入金情報
・原価情報
各情報の詳細については、「自作の原価計算表」のパートで説明します。

自作の原価計算表を使う

エクセルに関して「腕に覚えのある人」は、自分で原価計算表を作ってしまいましょう。あるいは「腕に自信がない」場合でも、最初に周りのサポートを得て完成させてしまえば、あとは数値を入力していくだけなので、難しいことはありません。

日付や金額などの必要情報を入力

先ほど「工事台帳」という言葉を使いましたが、基本的に「原価入力表」と「原価計算総括表」の二つのシートに分かれています(一つのシートにまとめることもあります)。これを作ります。
<原価入力表>
『日付』『仕入先名や摘要』『4費目のどれにあたるのか』『支払金額』の四つの項目を入力するシートを作ります。これらを発生の都度、日付順に入力していきます。
<原価計算総括表>
・基本情報:工事名、発注者、担当者、工事期間などを記載します。
・入金情報:入金日付、入金額
・原価情報:4費目別に月別予算管理を行います。つまり入力表のデータを、月別・費目別に集計して、総括表に反映させ、予算との差異を月別で確認します。これにより、現時点での粗利についても確認できるようになります。
これらの情報が集まれば、予算と実態の差異比較が可能になります。

合計原価の数式を入力する

入力表に4費目別に入力された各項目を、月別に集計して総括表に反映させます。このとき、エクセルのMONTH関数を使って行います。
MONTH関数によって取り出した各費目の合計(SUM関数)が、当月の原価になります。これを毎月、工事完了まで行うことにより、原価予算との差異、予定粗利との乖離などが管理可能になります。

エクセルを使った原価計算のメリット

ここまで、原価計算の概要をみたのち、具体的にエクセルで建設業の原価計算をする方法を解説しました。ここからは、なぜエクセルを使うのがメリットが大きいのかを、説明していきます。

管理システムよりもコスト削減が可能

最初のメリットは、コストの問題です。もしエクセルを使用しないとなると、選択肢は「専用システム(ソフト)」となります。確かに無料のものも探せばあるのかもしれませんが、多くは有料です。さらにインストール作業や、使用方法の習得など、ハードルは結構高いと思われます。
それに引き換えエクセルは、通常パソコンの新規購入価格に含まれて同胞されてくることが多く、パソコン購入後、すぐに利用できます。ほぼ「ノーコスト」というイメージです。

基本的な機能は誰でも簡単に使いこなせる

マイクロソフトのエクセルは、ワープロソフト「ワード」と並んで、日本でもっとも有名なソフトです。多くの日本人(外国人も)が知っているだけでなく、基本的な操作はほとんどの人が行うことができます。自社の「教育コストがかからない」のが、大きなメリットです。
求人票をみても、「ワード、エクセル使用必須」などの記載を多く見かけますし、ハローワーク提携のビジネススクールでも、エクセル講座を開催しています。したがって、他のソフト利用の場合より、開始の間口は広いと言えるでしょう。

紙の台帳よりも共有が容易

エクセルは、パソコンで作成する「デジタルデータ」ですから、メールをはじめいろいろな「情報共有システム」を経由してエクセルデータのやり取りを行うことが可能です。そして受け取ったデータに、そのまま入力・保管することができます。
もし紙のデータだった場合は、宅配便やFAXでやり取りをし、記入したデータをだれかが後日、再入力する必要もあり、非常に作業工数が増えます。
またエクセルをタブレット端末などで使用すれば、現場で気づいたときに即座に入力ができ、帰社後の事務作業を軽減できます。

表のカスタマイズが自由自在

先ほどテンプレートについて説明しましたが、ロックがかかっていないテンプレートは「自分好みに修正(カスタマイズ)」することが可能です。また、会社で代々使用されているエクセルフォームをカスタマイズして、自分の作業量を減らすことも合理化・効率化の観点から、会社も自身もWIN-WINです。
カスタマイズにはエクセル関数などの知識が必要ですから、自分の能力アップにもつながっていきます。

エクセルによる原価計算の問題点は?

次はエクセルによる原価計算のデメリットをみていきます。メリット・デメリット両方を確認して、初めて利用について決断ができるのです。

VBAレベルのマクロは難易度が高い

マクロとは、簡単にいうと「エクセルの操作を半自動にするための、エクセル内のプログラミング」です。「VBA(Visual Basic for Application)レベルのマクロ」という場合は、よりプログラミング言語を操作することに近い行為です。
もちろん利便性も高く、いままで1時間かかっていたエクセル作業が、5分に短縮された、などの効果があります。半面、習得には時間がかかります。「建設業を行いながら、夜にVBAの勉強をする」などの努力は称賛されるべきですが、自分のマンパワーをどのように案分するかの検討も必要です。

偶発的なミスが起こりやすい

たとえば、先輩社員(エクセルエキスパート)が作ったエクセルファイルを、あなたが引き継いだとします。先ほどのVBAを使ったマクロがふんだんに使用されており、あなたがちょっとセルの値を消してしまったために、ファイル全体の整合性が取れなくなった。そういう話は、よく聞きます。VBAほど複雑ではなくても、他人の作ったファイルを理解するのは結構厄介です。また、算式の入ったセルにデータを打ち込んでしまった、というのはみんながやっている代表的失敗です。

社外での共有作業の使い勝手が悪い

基本的にエクセルは、共有作業には向かないソフトです。特に最近は、オンラインで外部から「社内システムにログインして、社内ファイルを操作したい」ケースが多いのですが、エクセルでは難しいです。
また、一つのファイルを複数人がそれぞれダウンロードして操作すると、同じ名前で内容の異なる二つのファイルが出来てしまいます。どちらが最新なのか、分からなくなる弊害があります。
共有のケースが多い会社では、他のソフトの導入を考えるべきでしょう。

マスターデータを作成するまでが大変

先ほど、「エクセル原価計算表の自作」について説明しました。ごく「さわり」の部分だけ解説しましたが、実際に細部まで作り込むとなると、やはりそれなりの時間と工数がかかります。自分だけの「覚書」的な使い方ならばレイアウトなども気にしなくて良いでしょうが、全社的に使用するとなった場合は、レイアウトのみならずいろんなこと(一覧性、データ更新タイミングなど)を考えて作成する必要があります。

【まとめ】原価計算はエクセルで簡単に可能!無料テンプレートを活用して効率良く原価を管理しよう

ここまで「建設業の原価計算をエクセルで行う場合」の、さまざまな注意点、メリット・デメリットなどについて説明してきました。原価管理は会社の利益にも直結する大切な作業になります。原価を計算する際には、場合によっては自分のエクセル使用レベルに合わせた使い方(一部は自作、テンプレートも使って、場合によっては専用ソフトにも頼る)もよいでしょう。無料テンプレートを活用して効率良く原価を管理していきましょう。