労働安全衛生法とは?背景や目的・2024年に改正された内容も解説

労働安全衛生法のポイントを押さえた対応を行えば、従業員の安全と健康を守り、企業のリスクを減らせます。

とはいえ、「何をすれば労働安全衛生法を守れるのかわからない」「法改正への対応が難しい」と悩む中小企業の経営者や人事・総務担当者は少なくありません。

また、働く人にとっても職場の安全管理に不安を感じることがあるでしょう。今回は、労働安全衛生法の概要と中小企業が注意すべきポイントについて紹介します。

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労働安全衛生法とは

労働安全衛生法は、労働者の安全と健康を確保し、快適な職場環境の形成を図ることを目的として1972年に制定された法律です。通称「安衛法」と呼ばれ、企業には労働災害防止の措置を講じる義務が課されます。

労働災害の防止に必要な危害防止基準の確立や、責任体制の明確化などの施策を定め、労働者の安全と健康の確保を図っています。さらに、安全管理者や産業医の選任、安全衛生教育の実施、機械設備や有害物の管理、労働者への健康診断の実施など、幅広い企業の義務が規定されているのです。

制定後も度重なる改正が行われてきており、近年は化学物質管理の強化やメンタルヘルス対策(ストレスチェック制度の導入等)が図られてきました。

成立した背景

1947年(昭和22年)制定の労働基準法で、初めて安全衛生に関する14条の規定が盛り込まれました。

しかし、その後の高度成長期には労働環境が大きく変化し、従来の規制では新たな危険に対応しきれなくなっていました。1960年代後半には労働災害が多発し、年間6,000人以上の労働者が労災で命を落とす社会問題となったのです。

当時の安全衛生法制は工場法や鉱山法など一部業種への断片的な規制に留まり、全産業を対象とする包括的な仕組みの整備が求められました。

そこで、1969年から労働省が有識者と共に安全衛生法制の立案を進め、労働基準法の安全衛生規定を独立・拡充する形で1972年に労働安全衛生法が制定されました。

参考:厚生労働省「第12次労働災害防止計画(案)

制定された目的

労働安全衛生法は、労働基準法と相まって労働者の安全と健康を守るための包括的な枠組みを形成する法律で、その制定目的は職場で働く人々の安全と健康を確保し、快適な職場環境の促進です。

目的を達成するため、本法では労働災害の防止に必要な危害防止基準の確立、企業の責任体制の明確化および自主的な安全衛生活動の促進などの措置が講じられています。

例えば、安全な機械や保護具の基準、労働者への安全衛生教育、定期健康診断の実施などもこれらの目的に沿って義務付けられているのです。

このように、本法は単に労働災害を防ぐだけでなく、労働者の健康障害を予防し、健康保持とより働きやすい職場環境の実現を目指しています。

労働安全衛生法施行令・労働安全衛生規則

労働安全衛生法の規定を具体的に実施するための詳細は、政令である「労働安全衛生法施行令」と省令である「労働安全衛生規則」に定められています。

施行令・施行規則は本法の技術的・細目的事項を規定するもので、企業が現場で遵守すべき安全衛生の基準や手続きなどが示されています。政省令も法改正に伴い随時改正され、近年では化学物質管理の強化や保護具使用の義務化など最新の安全衛生対策が盛り込まれているのです。

下記では、両者の概要を説明します。前者は内閣が定める政令で、後者は厚生労働大臣が定める省令です。

また、「労働安全衛生法施行令」は一般に「安衛令」、「労働安全衛生規則」は「安衛則」と略称されます。

労働安全衛生法施行令とは

労働安全衛生法施行令とは、労働安全衛生法の規定事項を実施するために内閣が制定した政令です。

法律の委任に基づき、細かな基準や条件を定めており、安衛令とも呼ばれます。各種用語の定義、安全管理者や産業医などの設置を要する事業場の範囲、製造等が禁止されている有害物質の指定、クレーン運転など就業制限の対象業務など、様々な事項を規定しています。

2023年の改正により、化学物質のラベル表示やSDS交付、リスクアセスメント実施の義務対象となる物質が大幅に拡大されました。

1972年10月の安衛法施行と同時に制定され、以後適宜改正されています。

参考:厚生労働省「労働安全衛生法の新たな化学物質 規制

労働安全衛生規則とは

労働安全衛生規則とは、労働安全衛生法施行令に基づき厚生労働大臣が制定した省令で、「安衛則」とも呼ばれます。

安衛法および施行令の規定を受け、現場で実践すべき詳細な安全・衛生基準を示したもので、多くの業種・職種に共通する事項を網羅しています。

安全衛生管理体制、機械・設備や危険物・有害物に関する規制、労働者に対する安全衛生教育、資格のない者の就業制限、健康診断や面接指導の実施、特定業者に対する特別規制など様々です。

2024年の改正では、すべての事業場で化学物質管理者の選任が義務化されるなど、最新の安全衛生管理強化策が盛り込まれています。

参考:厚生労働省「労働安全衛生法の新たな化学物質 規制

労働安全衛生法と労働基準法との違い

労働基準法は賃金や労働時間など労働条件の最低基準を定める法律であり、労働者の基本的な待遇を保障します。

一方、労働安全衛生法は職場における安全と健康の確保に特化した法律です。

歴史的には、1972年に労働安全衛生法が労働基準法から分離・独立して制定され、労働災害の防止体制が強化されました。

現在では、労働基準法第42条において「労働者の安全と衛生は労働安全衛生法の定めるところによる」と規定されており、両法律は役割を分担しつつ労働者の保護を図っています。

労働条件の基本を労働基準法が支える一方で、安全衛生の専門事項は労働安全衛生法が詳細に定めており、両者は相補的な関係にあります。

参考:総務省消防庁「消防における安全管理体制について

労働安全衛生法で事業者が遵守すべき義務

労働安全衛生法では、事業者に対し労働災害を防止し労働者の健康を守るための様々な措置が義務づけられています。安全管理者の選任から危険防止措置、教育・健康管理まで、その内容は様々です。

下記で、事業者が遵守すべき主な安全衛生上の義務について解説します。

管理者や産業医などを配置する

労働安全衛生法では、一定規模以上の事業場において有資格者を安全管理担当者として配置が必要です。

具体的には、事業場ごとに総括安全衛生管理者(統括責任者)、安全管理者(技術面の安全管理者)、衛生管理者(職場の衛生担当者)および産業医(嘱託医)を選任する義務があります。

管理担当者が中心となり職場の安全衛生を管理します。

また、50人以上の事業場では安全委員会・衛生委員会(または安全衛生委員会)を設置し、組織的な安全衛生管理体制の構築も必要です。

参考:厚生労働省

労働災害の防止措置を講ずる

事業者はこうした措置を通して労働災害を未然に防ぎ、安全で健康的な作業環境を築く責任を負っています。具体的には、次のような対策を実施します。

  • 機械の動作範囲に身体の部位が入らないようにするため、柵や覆いなどを設ける
  • 火災、爆発の危険性のある物を取り扱う場合は、換気を行うとともに火気を使用しないなどの措置をとる
  • 原材料、ガス、蒸気、粉じんなどによる健康障害を防ぐため、換気設備の設置や保護具の着用を徹底する
  • 重量物を扱う作業では、機械の活用や複数人での作業により、一人当たりの負担軽減を図る

対策を講じることで、労働者の安全と健康を守り、安心して働ける職場環境を実現できます。

安全衛生管理体制を整える

常時50人以上の労働者がいる事業場では、安全委員会や衛生委員会(両方必要な場合は安全衛生委員会)を設置する義務があります。

委員会では毎月、安全確保の対策や健康障害防止策など重要事項について労使で調査審議し、労働者の意見を職場の安全衛生管理に反映させます。

このように、労使協働で安全衛生の向上に取り組む体制を整える狙いがあるのです。

50人未満の事業場には委員会設置義務はありませんが、代替措置として、事業者は安全衛生に関する労働者の意見を聴く機会を設ける努力義務があります。

参考:厚生労働省

リスクアセスメントを実施する

リスクアセスメント(危険性又は有害性等の調査)とは、職場の危険や有害要因を洗い出し、リスク(発生可能性と重篤度)を評価して適切な対策を講じる方法です。

労働安全衛生法第28条の2により、事業者にはリスクアセスメントの実施が努力義務として課されています。

化学物質については、近年の改正でSDS交付対象の有害物質すべてにリスクアセスメント実施が義務化されました。事業者が自ら危険性を評価し、必要なリスク低減措置を講じて労働災害を未然に防止する仕組みが一層強化されています。

参考:厚生労働省「リスクアセスメントの基本

労働者に安全衛生教育を実施する

事業者は労働安全衛生法に基づき、労働者に安全衛生教育を実施する義務があります。

また、安全で健康的な職場環境を実現するため、労働者に対して必要な安全衛生教育を計画的に行います。

  • 雇入時や作業内容変更時に安全衛生教育を実施する
  • 危険有害業務に新たに従事する者には特別教育を行う
  • 安全衛生教育を行うための作業マニュアルを作成する
  • スキル習得の訓練を実施する
  • 講師や教材を選定する

教育を通して、労働者の安全意識が高まり、知識と技能が向上します。結果として、事故の発生率が低下し、安心して働ける職場づくりに大きくつながります。

労働者の健康を保持増進する

事業者は労働者の健康管理にも、配慮する必要があります。雇入時および定期に健康診断を実施し、結果に応じて就業場所の変更や作業軽減措置を講じているのです。

常時50人以上の事業場では年1回のストレスチェック(心理的負担の程度を把握する検査)の実施が義務付けられ、メンタルヘルス不調の早期発見に役立てています。

さらに、職場での受動喫煙防止について、事業者には受動喫煙を防止する措置を講じる努力義務があるのです。

加えて、法第61条により無資格者の危険業務従事を禁止する就業制限規定があり、不適格な労働者を危険な作業に就かせないことで労働災害を予防しています。

参考:厚生労働省「ストレスチェックの実施義務対象

職場環境を改善する

労働安全衛生法では、労働者にとって快適な職場環境の形成について事業者の努力義務を定めています。厚生労働大臣は「快適な職場環境の形成のための措置に関する指針」(快適職場指針)を公表しており、事業者はこの指針を踏まえ自主的に職場環境改善に取り組むことが求められます。

例えば、適切な温度・湿度や照明の維持、騒音・振動の低減、快適な休憩スペースの設置など、作業環境や作業方法の工夫により労働者の作業負担軽減と職場の快適性向上を図ることです。

取組は法令上の義務ではありませんが、労働者の心身の負担を減らし生産性向上にもつながるため、企業の社会的責任として重要視されています。

労働安全衛生法を事業者が遵守するメリット

事業者にとって労働安全衛生法を遵守するのは、労働者の安全確保だけでなく職場の活性化や業務効率にも大きなメリットをもたらします。

例えば、安全衛生に配慮した職場では従業員の意欲や作業の質が高まり、結果としてコスト削減にもつながるでしょう。

ここでは、その主なメリットを説明します。

労働者の意欲を引き出しやすくなる

安全で健康に配慮された職場環境は、労働者に安心感を与え、ストレスを軽減します。そのような環境では仕事に集中しやすく、業務への前向きな姿勢が育まれます。その結果、仕事への意欲が高まり、積極性や士気の向上が期待できるのです。

さらに、企業が労働者の声を安全対策に反映すると、「自分たちの意見が尊重されている」という実感が生まれ、職場の活力が一層高まります。

安全衛生委員会への参加など、労働者が主体的に安全活動に関われる機会を設けることも意欲向上に有効です。

モチベーションの高い労働者が増えれば、職場全体が活性化し、生産性の向上にもつながります。

仕事の品質向上につながる

安全で快適な職場環境は、労働者が不安なく業務に集中できるため、作業の正確さや注意力が高まります。その結果、ヒューマンエラーや作業ミスが減り、仕事の品質向上につながるのです。実際に、「安全第一」を徹底すると生産性だけでなく品質も向上します。

職場の整理整頓やリスク管理が行き届いた現場では、必要な道具を迅速に取り出せてミスやムダを削減でき、製品やサービスの品質のばらつきも少なくなります。安全衛生に配慮した職場で働く労働者は責任感と誇りを持って業務に取り組みやすくなり、品質トラブルの未然防止や顧客満足度の向上にもつながるでしょう。

コストを削減できる

働きやすい環境を整備すると離職や休職が減り、採用・育成や代替要員の手配にかかるコストを抑えられます。加えて、労働災害の減少により生産ラインの停止や設備修理など予期せぬ損失を防ぎ、業務の継続性が維持できます。

さらに、安全管理体制が整った職場では、残業や交替要員にかかる余分な人件費も減らせるため、長期的な経費削減が期待できるでしょう。

労災保険料のメリット制による割引適用など、保険面での優遇も得られる可能性があり、結果として無駄な出費を減らして企業の収益向上につながります。

労働安全衛生法に事業者が違反した際の罰則

労働安全衛生法に違反した場合、内容に応じて罰則(懲役刑・罰金刑)が科せられます。以下に、主な違反例とその法定刑を紹介します。

  • 作業主任者を選任していない:6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金
  • 労働者への安全衛生教育を実施していない:50万円以下の罰金
  • 有資格者でない労働者に危険作業(クレーン運転など)を行わせた:6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金
  • 労働災害を報告せず隠蔽した(労災隠し):50万円以下の罰金

罰則を受けると企業の信頼低下や事業継続への悪影響につながるため、日頃から法令遵守を徹底しましょう。

労働安全衛生法の2024年に改正された内容

2024年4月に労働安全衛生法が改正され、化学物質の管理体制に関する新たな義務が施行されました。

リスクアセスメント対象の化学物質を扱う事業場では「化学物質管理者」の選任が義務付けられたほか、保護具の着用管理を担う「保護具着用管理責任者」の選任も新たに義務化されています。

下記では、それら改正内容を紹介します。

化学物質管理者の配置

2024年4月1日より、リスクアセスメント対象の有害な化学物質を扱う事業場では「化学物質管理者」を選任することが義務化されました。

リスクアセスメント対象物を製造・取り扱うすべての事業場が対象です。作業現場単位ではなく事業場ごとに1名以上を選任し、選任すべき事由が生じた日から14日以内に選任する必要があります。

選任要件は、化学物質管理者の業務を遂行できる能力を有する者で、基本的には事業者の裁量です。

ただし、リスクアセスメント対象物を製造する事業場では、厚生労働省指定の専門講習を修了した者を選任する必要があります。選任後はその氏名を事業場内に掲示して労働者に周知する義務もあります。

参考:厚生労働省「労働安全衛生法の新たな化学物質 規制

保護具着用管理責任者選任の配置

化学物質管理者を選任した事業場で、リスク低減措置として労働者に保護具を使用させる場合は、2024年4月より「保護具着用管理責任者」の選任が義務化されました。選任すべき事由発生から14日以内に選任する必要があります。

選任には厚生労働省が定める6つの条件(化学物質管理専門家や第一種衛生管理者免許保有者など)のいずれかを満たす従業員を充てる必要があります。

該当者がいない場合は所定の講習(保護具着用管理責任者教育)を受講し修了すると要件を満たせます。

保護具着用管理責任者は、化学物質管理者の指示のもと、保護具の適切な選定、使用方法の教育や保守管理などを主導し、労働者のばく露防止対策を徹底します。

参考:厚生労働省「労働安全衛生法の新たな化学物質 規制

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【まとめ】労働安全衛生法を遵守し労働者が安心して働ける環境作りを目指そう!

労働安全衛生法の遵守は、労働者が安心して働ける環境を整えるだけでなく、労働者の意欲向上や仕事の質・生産性の改善、離職抑制によるコスト削減など、企業にとって様々なメリットをもたらします。

さらに、労働災害の発生を防止し、法令違反による罰則の回避も可能です。

2024年の法改正では「化学物質管理者」や「保護具着用管理責任者」の選任が義務化され、化学物質による健康障害を防ぐための安全管理体制が一層強化されています。

安全で健康な職場環境の実現は、労働者の定着率や企業の社会的信用の向上にもつながるのです。企業は労働安全衛生法を正しく守り、全ての労働者が安心して働ける職場環境づくりに積極的に取り組みましょう。

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