完成工事高とは?他の勘定科目との関係や計上基準・用途などを解説

完成工事高

建設業界に携わる方は、「完成工事高」という言葉をよく耳にすると思います。しかし、その意味や会計処理上の扱い方、他の勘定科目との関係などを完全に理解しているでしょうか。

建設会社の経営において完成工事高は極めて重要な指標であり、経営者はその意義を十分理解する必要があります。この記事では、完成工事高の概要や他の勘定科目との関係などを詳しく解説します。ぜひ参考にしてください。

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完成工事高とは

完成工事高とは、建設業における収益科目の1つで、一般企業の「売上高」に当たる最も重要な指標です。完成した建設工事の請負金額を計上する勘定科目になります。建設業者の本業である建設工事から得られた収益がすべて完成工事高に計上されるわけではありません。例えば、建設工事以外に資材の販売や不動産業を営む場合、その収益は完成工事高ではなく雑収入などの勘定科目に計上されます。つまり、完成工事高は純粋な建設事業の収益を表す指標といえます。

完成工事原価との関係

完成工事原価は完成工事高に対応する原価で、労務費、材料費、外注費、経費などから構成されます。完成工事高から完成工事原価を差し引いた金額が、その工事から得られた利益(粗利益)になります。

経営者は両者の関係をよく把握して採算性を重視した上で、利益の出る受注に注力する必要があります。数字だけ見れば完成工事高が高額でも、それ以上に原価が嵩んでいれば利益は出ません。良い経営には、単に完成工事高を伸ばすだけでなく、採算性の高い受注を選別することが何より重要になります。

受注高との関係

受注高は工事請負契約を締結した時点での請負金額で、工事が完成すると完成工事高に振り替えられます。受注高自体は実際の収益ではありませんが、将来の収益源を示す重要な指標として注目されています。経営者は受注の動向を常に注視し、事業計画の精度向上やリソース配分など、経営判断に役立てる必要があります。

施工高との関係

施工高とは、工事進行基準において期中に実際に施工した工事の出来高部分の金額を指し、それが当期の完成工事高として計上されます。一方、工事完成基準では工事が全て完了した時のみ、その工事全体の請負金額が完成工事高となります。

つまり施工高は、会計期をまたいで行われる長期の工事案件について、期中の進捗状況を確認する指標として有効に活用できます。

手持ち工事高との関係

手持ち工事高は、受注高から施工高を差し引いた額で、将来完成予定の工事残高を示す重要な指標です。手持ち工事高が多ければ将来の受注残高が多く、安定した事業継続が可能になります。一方で過剰に多ければ、リソースの分散が生じ、工期延長のリスクも高まります。

次期繰越高との関係

次期繰越高は、受注済みの工事のうち当期に完成しなかった部分の金額です。次期に完成が見込まれる工事の規模を示す指標となります。次期繰越高が多ければ、次期の完成工事高の増加が見込めます。

金融機関からの融資を受ける際にも、次期繰越高は高く評価される指標の1つです。一方で工期が長期化するリスクもあるため、次期繰越高が過大にならないよう注意を払う必要があります。

完成工事未収入金との関係

完成工事未収入金は、完成工事高の内、工事代金として受注先から未回収の金額を指します。一般の売掛金に相当する勘定科目です。完成工事未収入金が多額になれば、売掛債権の回収リスクも高まります。一時的にキャッシュ不足に陥ったり、最悪の場合は債権回収が滞り経営破綻に追い込まれる恐れもあります。

未成工事受入金との関係

未成工事受入金は、工事が完成する前に受注先から受け取った工事代金の前受金です。工事完成時に完成工事高へ振り替えられます。未成工事受入金が過大になれば賃貸負債が増え、財務体質が悪化する恐れがあります。経営者は適正な水準に保つよう留意する必要があります。また、前受金の適切な管理を行い、受注先への返金リスクにも注意を払わなければなりません。

未成工事支出金との関係

未成工事支出金は、未完了の工事について発生した原価の仮勘定です。完成時に完成工事原価へ振り替えられます。工事が長期化すれば未成工事支出金が膨らみ、キャッシュフローが悪化する恐れがあります。そのため、経営者は工期管理を徹底し、無駄な費用の発生を防ぐ必要があります。

未成工事支出金が過大になれば、その分資金確保も難しくなり、経営に重大な影響を及ぼしかねません。

工事未払金との関係

工事未払金は、材料費や外注費などの工事原価の未払い分で、一般の買掛金に相当します。工事未払金の適切な管理は、協力業者との良好な関係維持にもつながります。

しかし、工事未払金が過剰に積み上がれば、支払リスクが高まります。建設業界では工事未払金の発生は避けられませんが、経営者は適切な支払サイクルを維持し、良好な取引関係を損なわないよう注意を払う必要があります。

建設業の勘定科目が特独特な理由

建設業特有の勘定科目が多数存在するのは、工事が長期に渡ることが多く、一般の会計処理では適切な収益計上が難しいためです。工事と収益の関係をきちんと表すために、特別な勘定科目が設けられています。経営者はこうした建設業特有の会計制度を理解し、適切な経理処理を心がける必要があります。

完成工事高の計上基準と仕訳例

完成工事高の計上には、「工事完成基準」と「工事進行基準」の2通りの方法があります。

工事完成基準

工事完成基準は、工事が全て完了した時に一括して完成工事高を計上する方法です。工事原価は全て未成工事支出金で処理し、工事完成時に完成工事原価へ振り替えます。

会計処理が単純でわかりやすい半面、工事期間中の収益が不明確になる点が課題です。工事完成基準では、木工事が全て完成するまでは収益が一切計上できません。

そのため、支出のみが発生し利益が出ないように見えてしまいます。しかし、実際には、工事が完成すれば利益が出る可能性が高いことが建設業の特徴です。

工事完成基準では、このような収益の現れ方が表面化しません。中小業者では工事完成基準が多く採用されています。

工事進行基準

工事進行基準は、工事の進捗に応じて期中の完成工事高を計上していく方法です。1年以上、かつ請負金額10億円以上の大規模工事に適用されます。

工期が長くなるほど工事進行基準のメリットが大きくなります。会計期をまたいで工事を行う大手ゼネコンでは工事進行基準が採用されることが多く、期間損益の把握が可能になるため経営管理が行いやすくなります。

当期

【仕訳例】
翌期完成予定の請負金額1,000万円の工事の仕訳を例に挙げます。

  • 見積総工事原価が800万円
  • 当期に計上する未成工事支出金が200万円だった場合

(1)工事進捗率 = 当期未成工事支出金÷見積総工事原価
= 200万円÷800万円=25%

(2)当期完成工事高 = 総請負金額×進捗率
= 1,000万円×25%=250万円

借方 貸方
完成工事未収入金 250万円 完成工事高 250万円

翌期

【仕訳例】
総請負金額から前期までの完成工事高を差し引いた金額を当期の完成工事高として計上したときの仕訳を見てみましょう。

当期完成工事高 = 1,000万円 – 250万円 = 750万円

借方 貸方
完成工事未収入金 750万円 完成工事高 750万円

完成工事高の会計以外の用途

完成工事高は単なる会計上の数値ではなく、経営指標や統計調査など様々な場面で重要視されています。経営者はこれらの活用方法も十分理解しておく必要があります。

経営事項審査

公共工事を受注するには経営事項審査の総合評定値が一定以上必要です。完成工事高は総合評定値の25%を占める極めて重要な評価項目となっています。許可業種別の完成工事高の実績が高いほど評価は高くなり、受注機会が広がります。

経営事項審査では、直近2年または3年における完成工事高の平均値が審査の対象となります。そのため、ある年度の完成工事高が大きく落ち込めば、次の審査で低い評価を受ける可能性があります。公共工事の受注を維持するには、完成工事高を毎年着実に積み上げていく必要があります。

統計調査

国や自治体が行う各種統計調査でも、完成工事高は重要な調査項目となっています。調査結果は経済政策や建設行政に活用される重要な基礎データとなります。

建設工事受注動態統計調査

主に大手建設業者を対象に、受注した建設工事の完成工事高などが調査されています。調査結果は国の経済施策の基礎資料とされ、企業の経営方針策定の参考資料にもなります。建設投資の現状や今後の見通しを立てる上で、非常に重要な統計調査と位置付けられています。

建設工事施工統計調査

建設業許可業者全体を対象に、完成工事高が調査されています。調査結果は国の経済政策や建設行政施策の立案に役立てられています。地域別や業種別の詳細なデータが得られることから、中小業者の実態把握にも貴重な統計となっています。

建設総合統計

上記2つの調査結果を基に、地域別・発注者別・工事種類別などの完成工事高が推計されています。国内の建設工事の実態を多角的に捉えることができ、経済動向の判断材料として広く活用されています。

【まとめ】完成工事高をよく理解して公共工事の受注に繋げよう!

完成工事高は建設業の収益を表す重要な指標です。しかし、単なる会計上の数値に留まらず、経営事項審査をはじめとする公共工事受注の判断材料や、統計調査を通じた政策立案の基礎データとしても活用されています。

建設業の経営に携わる方は、こうした完成工事高の意義やその影響力を十分に理解し、適切な経理処理と経営管理の両面から運用することが求められます。受注する工事内容や完成工事高の計上基準を適切に選択し、評価向上につなげるよう工夫しましょう。

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