工事代金未払いは契約書なしでも回収できる?対処法や注意点を解説

工事代金未払い 契約書なし

工事代金の未払いが発生した場合、契約書がないと、回収に手間がかかります。未払いの代金を回収するために、メールや打ち合わせ資料といった証拠を集めることが大切です。また、建築業法では、契約書の作成が義務付けられているため、口頭やメールでの請負は避けましょう。本記事では、契約書がない場合に工事代金請求権を立証する方法、代金未払いの対処法、回収法、防止法などを解説します。

もくじ

工事代金未払いは契約書なしでも回収できる

工事代金未払いは契約書なしでも回収できます。回収するために知っておくべきことがいくつかあります。

  • 口頭やメールでも契約は成立する
  • 契約書なしの場合は工事代金請求権を立証するのに手間がかかる
  • 契約書なしの場合に工事代金請求権を立証する方法

それぞれの内容を解説します。

口頭やメールでも契約は成立する

書面ではなく口頭やメールでも契約は成立します。契約とは、当事者間に法的な権利と義務を発生させる制度です。民法第522条2項に、「契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない」と明記されています。

口頭やメールによる契約でも、請負業者は施工を実施し、発注者は報酬を支払わなければなりません。

契約書なしの場合は工事代金請求権を立証するのに手間がかかる

前述したように口頭やメールでも契約は成立しますが、契約書がないと工事代金を請求する権利の立証に手間がかかります。工事代金を請求する請負者が、契約の締結や報酬金額の証拠を集めなければなりません。

また、建設工事の請負契約の当事者は、書面で契約を締結するよう建設業法第19条で義務付けられています。書面が存在しないと、請負者にとって不利に働くでしょう。

契約書なしの場合に工事代金請求権を立証する方法

契約書なしの場合に工事代金請求権を立証する方法に、以下の2つが挙げられます。

  • メールや資料などを活用する
  • 商法に基づく報酬請求権の発生を主張する

それぞれの内容を解説します。

メールや資料などを活用する

発注者とのメールのやり取り、打ち合わせに用いた資料、会議の記録などを契約の証拠として活用しましょう。契約書がなくとも、メールや資料などによって契約の締結や請負の金額などを示せれば、契約を立証できるかもしれません。契約を直接示す資料でなくとも、複数あれば信憑性が高まります。可能な限り多くの資料を集めましょう。

商法に基づく報酬請求権の発生を主張する

商法に基づく報酬請求権の発生を主張することも、工事代金請求権を立証する方法の1つです。商法第512条で「商人がその営業の範囲内において他人のために行為をしたときは、相当な報酬を請求することができる」と定められています。

工事を請け負った業者は商人であるため、実際に施工をしたのであれば、「相当な報酬」を請求できます。

工事代金請求権には時効がある

工事代金請求権には時効があるので注意しましょう。工事代金請求権の消滅時効期間と、時効を阻止する方法を以下で詳しく解説します。

工事代金請求権の消滅時効期間

工事代金請求権は、一定の時間が経過すると消滅します。建設業では一般的に、「権利を行使することができることを知ったとき」を起算とします。

請求権の消滅時効期間は、起算点が2020年3月以前であれば3年(改正前民法)、2020年4月以降であれば5年(改正後民法)です。時効が成立すると、未払いの代金を支払ってもらえない可能性が高いでしょう。

時効を阻止する方法

民法の改正前後で、時効を阻止する方法が異なります。起算点が2020年3月以前であれば、主に以下の方法で時効を「停止」または「中断」できます。

  • 裁判上の請求
  • 差押え
  • 仮差押え
  • 債務の承認

起算点が2020年4月以降であれば、主に以下の方法で時効の「更新」または「完成猶予」ができます。

  • 裁判上の請求
  • 支払督促
  • 倒産手続参加
  • 和解
  • 調停
  • 強制執行
  • 担保権の実行

工事代金未払いが発生した際にまず取るべき対処法

工事代金未払いが発生した際には、以下のように対処することが大切です。

  • 改めて支払日を確認する
  • 未払いの原因を確認する
  • 工事に関する注文者とのやり取りを保全する

それぞれの内容を解説します。

改めて支払日を確認する

工事代金の未払いが発生した際には、発注者に改めて支払日を確認しましょう。発注者の支払い忘れや支払い手続きミスであれば、速やかに対応してもらえるでしょう。早めに確認することが大切です。

あまりにも長い期間支払いが滞っていると、前述したように工事代金請求権が時効によって消滅し、代金が支払われなくなるかもしれません。

未払いの原因を確認する

支払日だけでなく、未払いの原因を確認することも重要です。発注者の支払忘れや経理ミス以外にも、発注者が経営破綻しているケースが考えられます。施工内容に不満があり、代金の支払いを渋っている可能性もあります。

理由に応じてとるべき対応が異なるため、未払いの理由が明確でない場合は、早めに発注者に連絡して確認しましょう。

工事に関する注文者とのやり取りを保全する

工事代金未払いが発生した際には、可能な限り注文者との工事に関するやり取りを保全しましょう。前述したように、契約書がなくてもメールや資料などがあれば、契約を立証できる可能性が高まります。

どのような工事をいくらで請け負ったか、いつ施工したかなどがわかる資料を集めてください。数が多ければ多いほど信憑性が高まります。

工事代金の支払いを注文者が拒否した場合の対処法

工事代金の支払いを注文者が拒否した場合、以下の方法で対処しましょう。

  • 目的物の引き渡しを拒否する
  • 工事請負契約を債務不履行にて解除する

それぞれの内容を解説します。

目的物の引き渡しを拒否する

工事代金の支払いを注文者が拒否した場合、目的物の引き渡しを拒否して構いません。民法第533条に、「相手方がその債務の履行を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができる」と明記されています。

また、商法第521条民法第295条の留置権を行使して、相手から代金を支払われるまで目的物の引き渡しを拒否できます。

工事請負契約を債務不履行にて解除する

民法第541条に、「当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる」と定められています。

さらに、民法第542条が適用されれば、催告せずに契約を解除できます。また、すでに施工が完了している場合は、民法第634条で代金を請求することも可能です。

工事代金未払いを回収する方法

工事代金未払いを回収する方法は、主に以下のとおりです。

  • 協力会社の場合は立替払い制度を利用する
  • 発注者に催告する
  • 内容証明郵便を送付する
  • 支払督促を申し立てる
  • 訴訟を提起する
  • 建築ADRを利用する
  • 財産を差し押さえる

それぞれの内容を解説します。

協力会社の場合は立替払い制度を利用する

工事代金の未払いによって下請業者が労働者に賃金を支払えない場合、建設業法第41条に基づく立替払い制度を利用できる可能性があります。必要があると認められれば、国土交通大臣または都道府県知事が発注者に賃金相当額の立替払いを勧告します。

ただし、発注者が一定金額以上の下請契約を締結できる「特定建設業者」でないと、制度を利用できません。

発注者に催告する

工事代金の未払いが発生したら、発注者に「催告」しましょう。催告とは、相手に一定の行為を要求することを指します。相手が要求に応じなかった場合に、一定の法律効果が発生することが特徴です。

催告によって代金や支払期日を相手に伝えましょう。口頭でも催告できますが、証拠が残るように書面で催告することをおすすめします。

内容証明郵便を送付する

前述した催告の方法の1つに、内容証明郵便の送付が挙げられます。内容証明郵便とは、どんな内容の書類が、誰から誰に宛てていつ差し出されたかを郵便局が証明する制度です。受領されたかどうかも確認できます。

内容証明郵便を送付することで、工事代金請求権の時効の完成を猶予できます。ただし、請求内容そのものに法的な効力は発生しません。

支払督促を申し立てる

「支払督促」を申し立てることも、工事代金未払いを回収する方法の1つです。簡易裁判所で支払督促の申し立て手続きをすると、裁判所が発注者に代金の支払いを命じてくれます。

支払督促は、後述する訴訟よりも低コストかつ短期間で手続きできることが特徴です。ただし、発注者と受注者との間で報酬額や支払時期に相違がある場合は、訴訟が適しています。

訴訟を提起する

発注者と受注者との間で契約の有無や内容に相違がある場合は、訴訟を提起しましょう。「少額訴訟」と「通常訴訟」の2種類について解説します。

少額訴訟

少額訴訟は、60万円以下の金銭を請求する際に用いられる制度です。少額訴訟は1日で審理が下る、通常訴訟よりも簡易的な訴訟です。原告、被告、裁判官、証人のほかに、民間から選ばれた司法委員が出席し、円卓で話し合います。

少額訴訟の場合、控訴はできませんが異議申し立てが可能です。少額訴訟で和解に至らなかったとき、通常訴訟に移行します。

通常訴訟

60万円を超える金銭を請求する場合や、少額訴訟では和解に至らなかった場合は、通常訴訟の実施が必要です。原告である請負業者が訴状や証拠を提出します。被告が提出した答弁書もふまえて、裁判所が判決を下します。判決が下される前に和解に至るケースも少なくありません。判決に不服がある場合は、控訴、上告と進みます。

建築ADRを利用する

未払いの工事代金を回収するために、「建築ADR(裁判外紛争解決手続)」の利用も検討しましょう。建築ADRは、国土交通省が設置する「建設工事紛争審査会」、弁護士会が設置する「住宅紛争審査会」などを介してトラブルを解決する制度です。当事者同士の話し合いよりも合理的に解決する可能性が高いといえます。個人でも建築ADRを利用できます。

財産を差し押さえる

訴訟で代金の支払いを命じられていたり、和解して支払いが決まっていたりするにもかかわらず、相手が代金を支払わない場合は、財産の差し押さえを申し立てなければならないかもしれません。

差し押さえが認められると、強制的に請求が実行されます。相手の財産を調査する費用や手間がかかります。また、差し押さえをしても、相手の財産が不十分だと代金の回収は難しいでしょう。

工事を開始するときは契約書を作成する

口頭やメールでも契約は成立すると前述しましたが、工事を開始するときは契約書を作成することが大切です。契約書の作成が重要な理由を解説します。

  • 契約書の作成は義務づけられている
  • 小規模の工事でも契約書を作成する
  • 口約束などの事後でも契約書を作成する
  • 不測の事態に備えた契約書を作成する

契約書の作成は義務づけられている

工事の契約時に、契約書の作成が建築業法第19条で義務づけられています。民法上は口頭やメールでも契約は成立しますが、契約書を作成しないと建築業法違反に問われるかもしれません。

契約書に記載すべき項目も、建設業法第19条で定められています。必要事項が記載されていない契約書は無効とみなされる恐れがあります。

小規模の工事でも契約書を作成する

小規模の工事でも契約書を作成することが大切です。前述したように、契約書の作成が建設業法で義務付けられています。手間がかかりますが、契約書を適切に作成することで、堅実で正当な業者だと発注者にみなされ、評価が高まるかもしれません。

また、契約書を作成することで契約内容が明確になり、施工後のトラブルを減らせます。

口約束などの事後でも契約書を作成する

口頭やメールでのやり取りの事後でも、契約書を作成しましょう。工事に着手する前に、速やかに契約書を作成することが重要です。時間が経てば経つほど、発注者と請負者に認識の相違が生じ、トラブルにつながりやすくなります。契約書を作成することで、口頭やメールでは不明瞭だった内容も、明確にして発注者と請負者で合意できます。

不測の事態に備えた契約書を作成する

不測の事態に備えて、適切な内容の契約書を作成しましょう。特に、天候不良や災害によって工事を続けられないケースがあります。不測の事態が起きた際の対応が明確になっていないと、工事が遅れた際に代金の支払いがされなかったり遅れたりするかもしれません。不測の事態が生じた際に金銭トラブルが発生しないよう、十分に条項を考えて契約書を作成しましょう。

工事代金未払いを防止する方法

工事代金の未払いを未然に防ぐことも大切です。防止方法をいくつか解説します。

  • 前払金を支払ってもらう
  • 見積書を正確に作成する
  • 連帯保証人を設定してもらう

前払金を支払ってもらう

工事代金の未払いを防止する方法の1つに、発注者に前払金を支払ってもらうことが挙げられます。施工後に全額支払ってもらうことが建築業では一般的です。しかし、全額が後払いだと、代金未払いのリスクが高まります。特に多額の費用がかかる場合は、以下のように代金を支払ってもらうよう交渉しましょう。

  • 前払いで代金の一部を支払ってもらう
  • 着手金、中間金、完了金の3回に分割して支払ってもらう
  • 工事の進捗に合わせて出来高の分だけ代金を支払ってもらう

見積書を正確に作成する

見積書を正確に作成することも、工事代金の未払いを防止するために重要です。大雑把な見積書では、発注者と請負者との間で認識の相違が発生し、施工内容や代金に関するトラブルにつながるかもしれません。

どのような工事をするのか、どのような費用がいくらかかるのかを詳細に記載することで、未払いを防げるだけでなく、信頼度も高まります。

連帯保証人を設定してもらう

工事代金の未払いを防止するために、連帯保証人を設定してもらうことをおすすめします。建築業法第21条で、請負者が発注者に、連帯保証人の設定を請求できることが定められています。

発注者が工事代金を支払えない場合、連帯保証人が代金を全て支払わなければなりません。工事代金の未払いのリスクを低減できるでしょう。

工事代金未払いは労基で対応できる?未払いを防ぐ方法や相談の流れなどを紹介の記事はこちら

工事代金未払いは労基で対応できる?未払いを防ぐ方法や相談の流れなどを紹介

【まとめ】工事代金未払いは契約書なしでも回収できる!負担が大きいため契約書は必ず交わそう

契約書がない場合に工事代金請求権を立証する方法、代金未払いの対処法、回収法、防止法などを解説しました。契約書がない場合、未払いの工事代金の回収に手間がかかります。また、未払いを防ぐために、前払金を支払ってもらったり、見積書を正確に作成したりすることが大切です。ぜひ本記事を参考に、契約方法を見直して、工事代金の未払いを防止しましょう。

こちらの記事では、元請けからの未払いが発生した際の対処法について解説しています。ぜひこちらもご確認ください。

元請けがお金を払ってくれない時の対処法とは?未払いの工事代金の回収方法を解説

※弊社の営業代行サービスツクノビセールスは、
【効果が出なければ全額返金プラン】を新たにスタートさせました! ツクノビセールス_建築建設業界特化の営業代行 詳しくは👆👆👆のバナーをクリック!!