建設業の法定福利費とは?内訳や見積りに反映する手順も解説!

建設業では最近、見積書作成で法定福利費を含んだ提出が求められることが多くなりました。法定福利費とは雇用している従業員の給与から預かるもので、会社側にも法令によって負担が義務付けられています。ここでは、建設業の法定福利費とはどのようなものなのか、また法定福利費の内訳や見積書へ記載する手順について解説します。

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建設業の「法定福利費」とその内訳

法定福利費は、従業員の福利厚生のための支出費用です。雇い主である会社側が、法令に基づいて従業員のために負担を義務付けされている費用となっています。そのほとんどが社会保険関連です。福利厚生には「法律が規定する法定福利厚生」の法定福利費と「法律が規定しているわけではない法定福利厚生」の福利厚生費があります。ここでは会社が負担するべき法定福利費の内訳について、またその割合についても見ていきましょう。

1:健康保険

病気やけがをして病院を受診すると医療費を払わなければなりません。しかし、健康保険に加入することで、加入者の従業員とその扶養家族の治療費の一部を負担してもらうことができます。健康保険料は従業員の給与から算定される標準報酬月額と都道府県によって保険料率が異なります。負担の割合は従業員が50%、会社側が50%です。また日本に住んでいる国民ならば公的医療保険の加入が義務となっています。自営業の方や無職の方は「国民健康保険」、75歳未満で会社に勤めている方は「健康保険」へ加入が必要です。短時間労働者やアルバイトに関しても常用的雇用と認められる場合は加入の義務があります。

2:厚生年金保険

厚生年金保険は、老齢、障害、死亡に対して給付されます。また、要件に当てはまる扶養配偶者も対象です。保険料率は健康保険料と同じで、従業員の給与から算定された標準報酬月額と都道府県によって異なります。また負担の割合も従業員が50%、会社側が50%となります。会社に勤めている20歳以上70歳未満の方が厚生年金保険の対象者で必ず加入が必要です。20歳以上60歳未満で自営業やパート、無職などの方は国民年金への加入が義務付けされています。

3:子ども・子育て拠出金

子ども・子育て拠出金は、子育て支援事業や15歳未満の子どもがいる家庭に支給される児童手当に活用するための税金です。以前は児童手当拠出金と呼ばれていました。この税金は従業員の給与から計算されるものですが、全額会社負担となり徴収されます。従業員が支払う義務はありません。

4:介護保険

年齢が高くなっていくと、介護が必要な時期が生じてきます。介護保険は介護が必要な方の為に費用を一部負担するものです。40歳以上の従業員が保険料を支払う義務があります。保険料率は健康保険と同様です。負担割合も50%が従業員、残りの50%が会社側となっています。また、介護保険が適用になるのも一定の要件が必要です。40歳以上65歳未満の方は第2号被保険者で、国が指定した16疾病によって要介護認定となった場合、適用されます。65歳以上の方は第1号被保険者となり、要介護・要支援となった場合、適用となります。

5:雇用保険

雇用保険とは従業員が会社を辞めて失業状態になったとき、再就職への支援や生活を安定させるために支給される保険です。従業員と会社がそれぞれ支払いますが、負担の割合は会社側が多くなります。雇用保険料率は事業ごとに定められていますが、建設業の場合、雇用保険料率は給与の総支給額に対して1.2%です。そのうちの0.8%が会社側の負担となります。短時間労働者なども一定の労働時間があれば対象となるでしょう。また、雇用保険には「育児休業給付」「介護休業給付」など従業員向けの給付と「トライアル雇用奨励金」など会社側にむけた給付もありどちら側も支援しています。

6:労災保険

労災保険は従業員が通勤中の事故や業務中の負傷や障害、死亡などに対して保障するための保険です。労災保険は子ども・子育て拠出金と同様、従業員からは徴収されません。全額会社負担となっています。正社員である従業員、短時間労働者やアルバイトまで対象になります。労災保険は従業員が1人でも加入が義務付けされています。労災の対象となると療養費の自己負担はありません。休業していても手当が支給されます。

社会保険に加入するための要件

社会保険に加入するにはどのような要件が必要でしょうか。社会保険の種類によって要件が異なります。健康保険・年金保険については正社員の従業員は基本的に加入義務があり、短時間労働者でも常用雇用であれば加入しなければなりません。雇用保険については従業員全員に加入する義務がありますが、会社の代表者は加入できません。労災保険は1人でも従業員がいると必ず加入しなければならず、他の社会保険と違い雇用する全従業員が対象となります。

建設業の法定福利費と福利厚生費の違いとは

福利厚生は法定福利費と福利厚生費に分かれています。法定福利費は従業員の加入が義務付けされている社会保険料のうち、会社が負担する分について使用する勘定科目です。健康保険料、厚生年金保険料、介護保険料などが決められた支出となります。法令に基づかない福利厚生費は支出が明確になっておらず、会社次第で幅広く適用になります。

建設業の福利厚生費の要件

福利厚生費は法令に基づかない支出と解説しましたが、計上できるための要件があります。従業員全員が対象となること、支出の内容、金額が妥当なものであることです。例えば、通勤手当、出張手当、社員旅行、健康診断の補助、忘年会や新年会などが従業員全員が対象となる科目です。しかし、一部の役員と従業員だけが対象となる親睦会などの支出に関しては福利厚生費になりません。会社の取り組み次第での判断が必要となります。

建設業の法定福利費の仕訳方法

法定福利費の一般的な仕訳方法は従業員の負担分を「預り金」または「立替金」として処理します。会社側の負担分は「法定福利費」となります。しかし、会社によっては預り金や立替金として処理しない場合もあります。ここからは仕訳の処理について解説します。どちらの仕訳方法で会計処理をしても、最終的には会社が負担している法定福利費は同じです。

方法1:個人負担分を預かり金として処理する場合

従業員への賃金支払い時に個人負担分を預かります。預り金として処理をする場合、借方の勘定科目は賃金や給与となりその総額の金額です。貸方の勘定科目は普通預金等と預り金で従業員に支払われた賃金の金額と法定福利費として従業員から預かった金額となります。社会保険料の支払いを処理する場合、借方の勘定科目は法定福利費と預り金で、会社負担分の金額と従業員から預かった金額です。貸方の勘定科目は普通預金となり支払った総額の金額となります。

方法2:個人負担分を預り金として処理しない場合

個人負担分を預り金として処理しない簡単な方法もあります。賃金支払い時の処理の仕訳ですが、借方の勘定科目は賃金や給与となり総額の金額です。貸方の勘定科目は普通預金等と法定福利費となり、支払われた賃金の金額と従業員から預かった金額です。社会保険料の支払いを処理する場合は、借方が法定福利費となり、会社負担分の金額と従業員からの預り金の総額になります。貸方は普通預金となり借方と同じ金額です。

建設業の法定福利費を含む見積書の作成手順

建設業は身体を使った作業が多い現場です。そのため、けがや障害を負うリスクが高くなってしまいます。健康保険や年金などの保障がないと安心して働けないでしょう。建設業に従事する従業員が安心する環境を作るため、社会保険の加入を推進するようになりました。これにより、法定福利費を記載している見積書の作成が始まりました。以前は法定福利費を含むとだけ記載した見積書だったため、計算の方法や根拠が分かりづらいものでした。2017年に国土交通省から「法定福利費を内訳表示した見積書の作成手順」として法定福利費の計算方法や明示する内訳のルールが新たに設けられています。ここからは作成手順を解説します。

手順1:労務費の計算

建設業の法定福利費は現場で働く従業員の労務費を基準として計算されるため、労務費の算出があることが条件です。労務費は会社ごとの現状に応じた方法で算出されます。平均的な日額賃金に必要な人員をかけたものが労務費になります。例えば平均日額が1万5000円で必要な人員が10人であれば、1万5000円✕10人=15万円となるわけです。また、過去の実績から算定した工事全体の平均的な労務費率を工事の金額にかけて概算として計算する方法も認められています。

手順2:法定福利費を算定

労務費に社会保険料率をかけた金額が、見積書に記載する法定福利費になります。見積書に記載する法定福利費は事業主負担分のみです。健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料の3つは従業員と会社側とで50%ずつの負担額となります。雇用保険料は業種によって従業員と会社側の割合が異なり、子ども・子育て拠出金は会社側の全額負担です。
保険料率は都道府県ごとに違い、雇用保険料以外は協会けんぽで公開しているためいつでも確認できます。保険料率は1年に何回か改定されるため、見積書を作成する場合は確認する必要があるでしょう。雇用保険料は全国一律ですが、業種によって保険料率が異なります。記載する際は確認をしましょう。

手順3:法定福利費の記載

工事費とは別に法定福利費を見積書に記載します。ここでは東京都の保険料率をもとにして法定福利費を計算します。労務費が15万円の場合、東京都の会社側負担分保険料率は4.92%となりますので、15万円✕4.92%で7万3800円が法定福利です。介護保険料、厚生年金保険料も料率は異なりますが、同じ計算方法で算出し記載します。概算の労務費率を用いて計算するには工事価格・保険料率・労務比率を記載しなければなりません。

手順4:消費税の計算

一般的に消費税は社会保険料の納付に対して非課税となっています。建設業の場合、工事見積書に含まれる法定福利費は、工事の対価となるため課税対象です。よって工事見積書を作成する場合、法定福利費を含んで計算し、全体の総金額に消費税を算定して問題はありません。

建設業における法定福利費を見積もりに含めるのは義務?

建設業では、見積書を作成する際に、法定福利費を含めた金額を記載し、下請けの会社から元請けの会社へ提出しなければなりません。見積書へ法定福利費を記載することになった理由と、記載することは義務なのかということを解説します。

法改正により平成25年から義務化

2013年から建設業で見積書を作成する際に、法定福利費を含めた金額で提出することが義務付けされました。建設業は労働する環境においていろいろな問題があり、優秀な人材、若い人材が辞めてしまうことが多くあります。この事態を解消するために、働きやすい職場づくりや労働環境を整えるという理由で、見積書への法定福利費の記載が義務付けされました。

義務化した理由

見積書に法定福利費を記載することが義務付けされた最大の理由は、建設業の健康保険や厚生年金保険などへの未加入という問題に対処するためです。とくに下請けの会社では未加入のまま作業を行っている場合が多くあります。加入していれば受けられるであろう公的な保障が、けがや病気になっても適用になりません。また厚生年金保険は老後に年金を受け取ることができないという問題が生じます。このような状態では建設業全体がマイナスのイメージになりかねません。建設業の職場環境を改善するためにも重要な取り組みとなります。

保険未加入だとどうなる?

福利厚生費を記載した見積書を提出しないと、元請け会社から仕事を依頼されません。各種保険に加入して保険料を負担している会社は見積書の金額も高くなります。未加入で保険料を負担していない会社はその分見積書も安くなります。元請けの会社も安い見積書を提出した会社を選んでしまうということもあるでしょう。法律を守った会社が不利になるようなことがないように建設業では、法定福利費を含めた見積書の提出を義務付けるようになったのです。

【まとめ】建設業の法定福利費の内訳や見積りの作成手順を要チェック!

法定福利費は、健康保険料、厚生年金保険など法令によって会社の負担が義務付けられているものです。保険未加入の場合は、従業員が公的保障を受けられない、年金の受給ができないなどの問題があるでしょう。建設業は保険未加入の会社が多くあり、保険加入へ促すために法定福利費を明示した見積書の作成が求められています。工事費に法定福利費を含めた見積書となるため節税対策にもなります。また新設された見積書は計算の根拠を明確に記載するだけで計算ができます。なぜ法定福利費が必要なのか、その内訳について解説しましたので見積書を作成する際は参考にしてください。

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