建設業法で備付けが必要な帳簿とは? 保存義務の概要、帳簿の記載事項など分かりやすく解説

建設工事を行う建設業者は、元請・下請にかかわらず帳簿の備え付けが必要です。これは建設業法で定められている事項ですが、具体的にどのような書類を備え付ければよいのでしょうか。

この記事では、建設業法に基づく帳簿の備え付けと、加えて保存義務がある図書についても解説します。

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建設業法における帳簿の備え付けとは

建設工事に着手する上で、規模の小さい軽微な工事以外の案件を請け負うためには、建設業の許可が必要です。認可には多くの手続きが必要で、建設業法に基づき、営業に関する事項を記載した帳簿および必要書類を添付する義務が定められています。

建設業者は、国土交通省令で定めるところにより、その営業所ごとに、その営業に関する事項で国土交通省令で定めるものを記載した帳簿を備え、かつ、当該帳簿及びその営業に関する図書で国土交通省令で定めるものを保存しなければならない。
引用:「建設業法第40条の3

書類の保存期間は5年間で、事業所ごとに保存が必要です(発注者と締結した住宅を新築する工事に関しては、10年間の保存が必要)。帳簿の備え付けや保存を怠った場合、建設業法違反として罰則を受けます。保存期間や保存物の確認をしておきましょう。

図書の保存義務とは

発注者から直接依頼を受ける元請け業者は、帳簿保存義務に加えて営業に関する図書の保存義務も発生します。

営業に関する図書として、「完成図」「発注者との打ち合わせ記録」「施工体系図(作成特定建設業者のみ)」があげられます。これらの書類を工事引き渡し日より10年間保存することを、国土交通省は建設業法第26条5項にて義務付けています。

営業に関する図書として保存しなければならないものは、以下の通りです。

  • 完成図:完成図を作成、あるいは発注者から提供された場合に保存する。
  • 発注者との打合せ記録:工事内容に関する打合せをした際に、記録を相互に交付したときに保存する。
  • 施工体系図:施工体系図の作成義務がある場合に保存する。このとき、下請構造が明らかとなるように作成する必要がある。

帳簿等保存義務のある建設業者とは

帳簿等の保存義務がある建設業者は、建設業法第3条第1項の許可を受けて建設業を営む業者です。この建設業者には、個人事業主や一人親方も含まれ、元請け・下請けを問わず許可が必要です。

ただし、工事1件の請負金額が1,500万円未満、あるいは述べ面積150㎡未満の木造住宅工事、建築一式工事以外で工事1件の請負金額が500万円未満の工事においては、建設業の許可が不要とされています。

帳簿保存の対象となる工事

帳簿保存が必須の工事は、以下のとおりです。

  1. 注文者と締結した建設工事
  2. 発注者と締結した住宅の新築工事
  3. 下請契約

いずれも、建設業許可を受けた業者に帳簿の保存義務があります。一定額以上の工事では、上記に加えて記載および添付する項目があるため、必要な項目は事前に確認しておきましょう。

参考:国土交通省 九州地方整備局「よく分かる建設業法」

営業所に備え付ける帳簿の記載事項

帳簿の書式は、国土交通省の各地方整備局で参考書式を公開しています。ただし、書式は原則自由です。帳簿に記載すべき事項は決まっているため、作成前に必須の記載事項を確認しておきましょう。

以下、国土交通省関東地方整備局で公開されている参考書式を紹介します。

1.営業所情報

営業所の名称
代表者の氏名
代表者となった年月日

2.注文者と締結した建設工事の請負契約

請け負った建設工事の名称
工事現場の所在地
請負契約締結年月日
注文者に係る事項
商号、名称又は氏名
住所
許可番号
大臣・知事コード
番号
検査完了年月日
引渡年月日
発注者と締結した住宅を新築する建設工事の場合
床面積
(共同請負である場合)
建設瑕疵負担割合
資力確保措置の内容
(供託・保険)
(保険の場合)
保険法人の名称

3.当該工事に係る下請契約

下請契約の名称
工事現場の所在地
下請契約締結年月日
下請負人に係る事項
商号、名称又は氏名
住所
許可番号
大臣・知事コード
番号
検査完了年月日
引渡年月日
法第24条の6第1項に規定する下請契約に該当する場合
下請代金既支払額
支払年月日
支払手段
(現金・手形・その他)
手形を交付した場合
手形の金額
手形交付年月日
手形満期年月日
下請代金未支払額
遅延利息支払額
遅延利息
支払年月日

参考:国土交通省関東地方整備局「建設業者への指導・監督等について

営業所情報・代表者

営業所の情報は、正式名称で記載しましょう。営業所の名称および代表者、代表者就任日を正確に記入する必要があります。

注文者と締結した建設工事の請負契約

直接注文者と交わした建設工事の請負契約においては、工事名称および所在地や注文者の情報などを記載します。注文者が建設業者であれば、許可番号の情報も必要です。

建設業法施行規則第26条第1項に定められた、帳簿に記載しなければならない内容は以下の通りです。

  1. 工事の名称・現場の所在地
  2. 請負契約を締結した日付
  3. 注文者の情報(商号・住所・許可番号)
  4. 工事完了後の確認検査完了年月日
  5. 工事対象の引渡し年月日

発注者と締結した請負契約の記載事項

宅地建物取引業者を除き、発注者と交わした新築住宅の建設工事における請負契約の場合、基本の記載事項に加えて以下の項目も記載が必要です。

  1. 住宅の床面積
  2. 複数の建設業者で請負契約した場合は建設瑕疵負担割合
  3. 住宅瑕疵担保責任保険法人との住宅建設瑕疵担保責任保険の契約を交わし、発注者へ書面交付している場合は住宅保険法人の情報

下請負人と締結した下請契約の記載事項

下請負人と締結した建設工事の下請契約においては、下請契約の名称や所在地などの情報のほか、下請負人の情報を記載します。
特定建設許可業者が一般建設業者(資本金4,000万円以上の法人除く)へ下請負を発注した場合、基本の記載事項に加えて、支払った下請金の情報・支払手形の情報・金額や遅延利息額・支払日の記載が必要です。

特定建設許可業者は、下請負人(特定建設許可業者および資本金4,000万円以上の法人を除く)からの引渡し申出日から50日以内に下請金額を支払わなければ、利息が発生します

帳簿に添付する書類(契約書等)

建設業法における帳簿は、指定の添付書類も必要です。以下の書類の添付が義務付けられています。

  1. 契約書またはその写し
  2. 特定建設業者が資本金4,000万円未満の一般建設業者に下請工事を発注した場合、支払い済の下請金情報を証明する書類またはその写し
  3. 元請工事を行った業者が施工体制台帳を発行した場合、工事現場へ据え付ける施工体制台帳の必要部分

帳簿・添付書類は電子データでの保存も可能ですが、電子データから紙媒体へ印刷表示できる状態でなければなりません。

施工体制台帳は、工事に関わるすべての業者名とそれぞれの業者が担当する施工範囲・技術者氏名などを記した台帳です。工事が完了した後に、施工体制台帳から必要な部分を抜粋して添付します。

帳簿記載・保存の注意点

帳簿の記載方法や保存において、気をつけなければならないポイントがあります。法に基づいた保存ができていないと罰則を受ける恐れがあるため、注意すべき点を把握しておきましょう。

各営業所で保存する必要がある

帳簿の一括保管はできません。各営業所で契約した内容を証明するため、作業を担当した営業所での保存が必要です。規模の小さな営業所では帳簿の保管場所を確保できない場合もありますが、原則として契約した営業所での保存を心掛けましょう。

デジタルタイムスタンプで改ざんを防止する

帳簿や図書の保存は、紙媒体での保管を基本とします。ただし、2005年に施行されたe-文章法により、データ保存も認められることになりました。

データ保存する場合は、データの改ざんを防ぐためにデジタルタイムスタンプの利用を心がけるとよいです。デジタルタイムスタンプとは、電子データがその時刻に存在していたことを証明するための電子的な証明書のことです。

添付書類のみの書類は帳簿として扱わない

帳簿の形式に指定はありませんが、記載する内容には決まりがあります。契約書をそのまま綴じたとしても、帳簿としては扱われません。定められた項目は必ず記載するようにしましょう。

記載するべき項目は、本記事の「営業所に備え付ける帳簿の記載事項」にて具体的に紹介していますのでそちらを参考にしてください。

帳簿等保存義務に違反した場合

帳簿や添付書類の保存義務に違反した場合、法に基づき罰則が課せられます。具体的な違反内容を以下に示します。

  1. 建設業を営む営業所に帳簿及び添付書類が備付けられていなかった場合
  2. 帳簿及び添付書類は備付けられていたが、5年間保存されていなかった場合
  3. 発注者から直接請け負った建設工事の完成図等の営業に関する図書が、10年間保存されていなかった場合

引用:国土交通省「建設業法令遵守ガイドライン

これらの義務を怠った営業所は、10万円以下の過料に処されます。

工事の過程や完成後などに、万が一トラブルが生じて訴訟になった際に帳簿等が保存されていないと不利になる恐れがあります。工事に関するトラブルの多くは金銭トラブルや欠陥トラブルです。工事内容や契約に関する書類が適切に保管されていれば、適切に対処できるでしょう。

また、従業員が工事で労災認定を受けるとき、従業員が工事現場にいた証明が必要です。帳簿等が保存されていないと、証明するものがなく労災認定の手続きに支障を及ぼします。

会社や従業員を守るためにも、法に基づいた帳簿の保存は重要といえるでしょう。

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【まとめ】建設業法上必要な帳簿は適切に管理しよう

建設業の許可を受けた営業所は、建設業法において営業に関わる事項を記載した帳簿の備え付けと、関連図書の保存が義務付けられています。帳簿の書式は自由ですが、記載するべき項目は定められています。各地方整備局の参考書式に準ずると記載漏れがなく作成できるでしょう。

保存義務に違反すると罰則のほか、訴訟や労災認定の際に支障をきたす恐れがあります。帳簿は適切に管理し、現場へ影響のないように備えておきましょう。

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