一人親方と個人事業主の違いとは?労災保険の特別加入制度についても解説

最近では会社に雇われずに働く人、いわゆる「フリーランス」の存在に注目が集まっています。会社で働いている人でも副業を始める人が増加しており、副業フリーランスに興味を持つ方も増えているように感じます。フリーランスを目指そうとしている方の中には「一人親方」と「個人事業主」の違いがよくわからず困っている方も多いのではないでしょうか。

フリーランスの定義も確認しつつ、一人親方と個人事業主の違いを解説していきます。

ぜひ参考にしてみてください。

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一人親方と個人事業主の違いとは?フリーランスと何が違う?

一人親方と個人事業主との違いとは何でしょうか。「個人で事業を請け負っている者」のことを表す言葉として認識されている方が多いのではないでしょうか。「じゃあ、フリーランスって何なの?どう違うの?」とさらに疑問を覚える方もいるかもしれません。どの用語も「企業に雇われない働き方」によく関係しており、混同しやすいです。

それぞれの違いを理解していきましょう。

まずは、一人親方・個人事業主・フリーランスの用語について具体的に説明していきます。

一人親方とは?

「労働者を使用せずに、特定事業をおこなうことを常態としている者」を一人親方といいます。「労働者を使用しない」といっても、完全に1人で業務をしなければならないわけではありません。

個人事業主との違いで詳しく説明しますが、一時的に労働者に手伝ってもらうことは可能です。一人親方の特徴として、基本的に請負契約で仕事をおこなうことになります。企業に雇われて働く会社員とは異なり、労働者とはみなされません。

ただし、他人の指揮命令を受ける必要がなく、業務の開始・終了時間や依頼の諾否などを自由に決めることができます。時間給ではなく出来高給で報酬を得るのも特徴です。

個人事業主とは?

個人事業主とは「法人化せず個人として単独で事業をおこなう者」です。税務署に開業届を提出すると税法上、個人事業主となります。「個人として事業をおこなう者である」点は一人親方にも該当します。

ただし、個人事業主は労働者の使用について制限はなく、正社員やパート・アルバイトなどを自由に雇うことが可能。業種にも指定はなく、一人親方よりも限定されない点が特徴です。ただし、法人化していないため、事業上の責任はすべて個人が負うことになります。

フリーランスとは?

フリーランスは会社や団体に所属せず、個人で案件を獲得し報酬を得る働き方を指した言葉です。個人事業主のように税法上の区分を示す言葉ではない、という点を理解しておきましょう。

会社と雇用契約を結ばず、個人で仕事を請け負っている働き方をしている人はフリーランスと呼ばれます。税務署に開業届を提出することで、フリーランスも税法上は個人事業主に区分されるのです。フリーランスはあくまでも働き方であって、職種や業務形態はさまざまです。

一人親方と個人事業主の違い!4つのポイントで解説

一人親方・個人事業主・フリーランス、それぞれの言葉の意味を確認しました。意味が重なっている部分があるものの、確かな違いがあることを理解していただけたのではないでしょうか。

特に留意したいのは、「一人親方も個人で仕事を請け負っている点から個人事業主の一種である」点です。個人事業主の中でも、一人親方に該当するかどうかはさまざまな条件を満たしている必要があります。

  • 業種
  • 働き方(請負元の管理監督下にあるかどうか)
  • 従業員の雇用の有無
  • 労災保険の加入可否

上記の4つのポイントから、一人親方と個人事業主の違いについて見ていきましょう。

7つの業種に該当するか

個人事業主はどんな業種かどうかは問われないということでしたね。一方で、一人親方は厚生労働省により業種が特定されています。特定業種には7つあり、下記の業種が対象です。

  1. 自動車を使用して行う旅客または貨物の運送の事業(個人タクシー事業や 個人貨物運送業など)
  2. 土木、建築その他の工作物の建設、改造、保存、原状回復(注)、修理、変更、破壊もしくは、解体またはその準備の事業(大工、左官、とび職人 など)
    ※除染を目的として行う高圧水による工作物の洗浄や側溝にたまった堆積物の除去等の原状回復の事業も含みます。
  3. 漁船による水産動植物の採捕の事業(⑦に該当する事業を除きます。)
  4. 林業の事業
  5. 医薬品の配置販売(医薬品医療機器等法第30条の許可を受けて行う医薬品の配置販売業)の事業
  6. 再生利用の目的となる廃棄物等の収集、運搬、選別、解体等の事業
  7. 船員法第1条に規定する船員が行う事業【労働者災害補償保険法施行規則第46条の17より】

引用:厚生労働省「特別加入制度のしおり

請負先に監督されているかどうか

特定の業務を1人でおこなう個人事業主であっても、働き方によっては「一人親方ではない」と判断される場合があります。端的に言えば、「労働者とみなされる」働き方をしているかどうかです。一人親方ではなく労働者であると判断された事例をご紹介します。

請負ではなく労務提供に該当すると判断されたケース(大工職人の事例)

  • 就業期間中に他社の依頼を受けていない
  • 大工業務の他に、ブロック工事などの仕事にも従事させられた
  • 請負元の現場監督による指示命令を受けていた
  • 大工道具以外の必要資材などは請負元が負担していた

左官工のケース

  • 会社と雇用契約があったが、会社の方針により一人親方となった
  • 一人親方となったあとも、仕事内容は従業員だったころと変わらなかった
  • 数人でおこなう仕事の場合、メンバー構成は会社が決定していた

会社は自社の負担を減らすために、従業員に対して「一人親方になり、個人で社会保険に加入する」ことを勧めていることもあります。

上記のケースのように、会社側に指揮命令があると判断される場合、会社は一人親方を自社の社員として社会保険に加入させる義務が生じます。

従業員を雇用しているかどうか

従業員の雇用の有無についても、一人親方と個人事業主を区別するポイントの1つです。一人親方は基本的に労働者を使用せず、1人で働くことが条件となります。

一方で、個人事業主は従業員を必要に応じて自由に雇用することが可能です。ただし、一人親方も従業員を使用することが一切できないわけではありません。

年間で使用日数が100日未満であれば、従業員を使用することは可能です。一人親方で人手が必要となった場合には、使用日数に注意しましょう。

一人親方労災保険に加入できるかどうか

一人親方にしか認められていない特別な権利があります。「一人親方労災保険」は、その権利のうちの1つです。労災保険は、正式には「労働者災害補償保険」といい、文字通り「労働者」を対象に業務中や通勤上のケガや病気、障害などに対して保険給付をする役割があります。

一人親方は労働者ではないものの、通常の労働者以上に業務中のケガのリスクが高いことなどから、特別に労災保険の加入が認められています。一人親方が労災保険に加入するにあたっては、労働局が承認した「一人親方労災団体」を通して申込手続きをする必要があります。

もし、一人親方であっても前述のように「労働者」として働いている状況があれば、請負元の労災保険に加入できるため、留意しておくとよいでしょう。

一人親方が利用できる労災保険の特別加入制度

一人親方と個人事業主の違いについて細かい内容まで説明してきました。特に留意したいのは、労働者と同じ働き方をしている一人親方であれば「労災保険」へ特別に加入できる点です。

本来であれば、雇用関係にない一人親方は労災保険へ加入できません。一人親方が利用できる労災保険の特別加入制度とは何なのか確認していきましょう。

特別加入制度とは?

労災保険の特別加入制度とは、雇用関係にないが労働者と同じような働き方をしている人も、労災保険の補償対象とする制度です。基本的に労災保険は、日本国内で労働者として事業主に雇用され、賃金を受けている人が対象となります。

しかし一人親方として労働者を雇わず、自分自身で業務を行っている人は労働者と変わりません。そのため、労働者と同じように保護することを目的とされています。

労災保険の特別加入制度の対象業種

労災保険の特別加入制度の対象業種は以下の通りです。

  • 自動車を使用して行う旅客または貨物の運送事業
  • 土木、建築その他の工作物の建設業
  • 漁船による水産動植物の採捕事業
  • 林業
  • 医薬品の配置販売事業
  • 再生利用の目的となる産業廃棄物処理業
  • 船員法第一条に規定する船員
  • 柔道整復師
  • 高年齢者雇用安定法に基づいて高年齢者が行う事業
  • あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師
  • 歯科技工士

こちらの業種で労働者を使用せず、1人で働いている人が対象となります。また、2024年1月現在で対象となっていない清掃業やIT業種も、世の中のニーズが増えれば加えられるということもあります。

間違えやすい!一人社長についても解説

一人親方と個人事業主の違いについてフリーランスの定義も確認しつつ、解説してきました。特に一人親方と個人事業主の違いについては細かい内容まで説明してきましたが、一人親方と似ている名称として「一人社長」があります。

「親方」は職人グループの中でも師匠と呼ばれる人や弟子を指導する立場にある人を指す言葉として使われます。一方で、「社長」は会社の最高責任者を指す言葉として使われることが多いです。「親方」と「社長」という部分が違うだけですが、やはり違いがありそうですね。「一人社長」とは何なのか確認してみましょう。

一人社長とは

一人社長とは1人で会社を設立し、設立後も従業員なしで会社を経営していく人のことです。個人事業主と区別するポイントとしては、法人として認められていることです。

法人だと何が変わるのかについて、1つ具体例を紹介します。一人社長の場合、法律上では法人が事業をおこなっているとみなされるため、事業上の責任は法人にあると考えられるのです。個人事業主の場合は、事業上の責任はすべてその事業をおこなう個人にあるとされます。

一人親方と一人社長の違いとは

一人親方と一人社長は「従業員なしで1人で事業をおこなう」という点が共通していて、混同しやすいですね。違いを理解するのに重要となるポイントは、やはり個人なのか法人なのかです。個人と法人とで異なる点は責任範囲だけではありません。


例えば、利益に対して課せられる税金は個人の場合「所得税」となります。法人の場合は「法人税」です。また、受け取れる給付金の最大金額も個人と法人では異なります。一人親方から法人化し、一人社長となることは可能です。違いを理解することは、法人化するかどうかの判断材料となるでしょう。

  • 税金
  • 加入する保険
  • 給付金

上記3つのポイントから違いを具体的に解説します。

一人親方から法人化し、一人社長となることは可能です。違いを理解することは、法人化するかどうかの判断材料となるでしょう。

税金の違い

個人と法人とでは税金面での違いがあり、節税にもつながるポイントですので要チェックです。

会社の利益に対して課せられる税金について

個人事業主は、会社の売上高から必要経費を引いたものが事業所得となり、この事業所得に対して「所得税」が課せられます。一方で、法人の場合は所得税ではなく「法人税」となります。所得税と法人税では税率が異なっており、どちらが節税になるかは所得しだいです。一般的には所得がある一定水準を超えると法人税のほうがお得になります。

消費税について

売上が1,000万を超えると消費税が発生することは、個人事業主であっても法人であっても変わりありません。ただし、個人事業主は開業後の2年間および法人化してから2年間については、消費税が免除されることになっており、法人化のタイミングによっては最大4年間免除を受けることが可能です。

加入する保険の違い

条件によって加入しなければならない保険が変わりますので、それぞれの違いを理解しておきましょう。

社会保険(厚生年金・健康保険)

法人の場合は、従業員を雇っているかに関係なく、社会保険の加入が義務となります。そのため、一人社長であっても加入する必要があります。保険料は本人と会社がそれぞれ半分ずつ負担することになるため、会社としてはコストになることを認識する必要があります。個人事業主の場合は、常時5人以上の従業員がいる場合に加入義務が生じます。一人親方は従業員がいないとされるため、加入する義務はありません。

労働保険(雇用保険・労災保険)

法人か個人に関係なく、1人でも従業員を雇えば労働保険に加入しなければなりません。加入対象であるにもかかわらず、行政指導を無視するなどして加入を怠った場合には、追徴金を支払う必要があります。一人親方については、労災保険に関しては「一人親方労災団体」を通じて特別加入することが可能です。労災保険の保険料についてはさらに特徴があります。通常加入者は、前年の所得をもとに自動で計算されますが、特別加入者(一人親方)の場合は加入者自身が選択した「給付基礎日額」により保険料が算出されます。給与基礎日額とは、労働基準法上の平均賃金に相当する額のことです。一人親方の「平均賃金の算出が容易にできない」ことを考慮した結果、保険料の算出方法が異なっています。

給付金の違い

国や地方自治体による給付金や助成金は、対象や目的はさまざまですが、ある一定の条件を満たした状態ならば、申請することにより受け取りが可能です。新型コロナの影響が大きい昨今の経営者や事業主にとって最も注目すべきは、「持続化給付金」ではないでしょうか。持続化給付金についても、法人か個人かで受け取れる最大金額が異なっており、法人では最大200万円、個人では最大100万円とされています。法人と個人では、給付金や助成金を受け取る条件や内容などに差がある可能性が高いです。そのほかにも、個人は法人に比べると社会的な信用が低くなるのに対し、法人は個人に比べて信用が高いなどの違いもあります。決して「個人が雑な経営をしているから」という理由ではありません。ただ、個人事業主とは仕事をしないと決めている企業があったり、大きな取引はしない方針をとっている企業があったりするのは事実です。

一人親方とは一人親方とは?個人事業主との違いや加入できる労災保険などを解説

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【まとめ】一人親方は個人事業主の一種!全て一緒ではないので注意しましょう

法人か個人かという違いについて確認できたところで、最後に一人親方についてもう一度確認しておきましょう。一人親方であっても、開業届を税務署に提出して「個人で事業をおこなっている者」であることを申告していれば、税法上は個人事業主とされます。

つまり、一人親方は個人事業主の一種です。しかし、従業員の有無や業種によって一人親方に該当するかどうかが決まります。個人事業主であっても一人親方には該当しないケースもありますので注意してください。